インタビュー

南紫音 『ファンタジー』

テーマはイザイ。そして親交が深かったフォーレとフランクの美しき調べ

(C)Syuichi Tsunoda

 

 初の海外コンクールだったアルベルト・クルチ国際で第1位に輝いてから今年で10年。翌年のロン=ティボー入賞時もまだ高校生だった南紫音が、昨年9月からハノーファー音楽大学に留学し、ドイツでの生活をスタートさせた。かの地で師に選んだのは、クシシュトフ・ヴェグジン。世界中のコンクール審査員やマスタークラスなどでその名を知られ、2010年のロン=ティボー1位だったソレンヌ・パイダシや、12年ハノーファー1位のアレクサンドラ・コニュノヴァ=デュモルチエらを育てた名伯楽である。

 「実は私が以前習っていた原田幸一郎先生の古くからのお知り合いで、それで紹介していただいたのがきっかけです。いしかわミュージックアカデミーや韓国など何度か先生のセミナーやマスタークラスなどに伺った上で、習うことになりました。プライヴェイト・レッスンになると、もうとても細かいレッスンで、練習の仕方まで本人が理解したと感じるまで、とにかく何回も何回もひとフレーズに時間をかける先生です」

 ハノーファーでの生活はどうされているんですか?

 「本当に何もないところなので、よい意味で音楽に集中できる環境です。朝起きて、練習して、今日は何を食べようって考えて買い物に行って、またさらって、レッスンに行って、コンサートを聴きに行ったり、人と会ったり……そんな感じです。日本に帰った時は、演奏活動をしているのですけれども、ハノーファーではとにかく次の演奏会のために曲を勉強して、準備してと、その繰り返しですね」

南紫音 ファンタジー UCJ Japan/ユニバーサル(2014)

 この6月には、4年ぶり3枚目となる待望のニュー・アルバムをリリース。選んだテーマは「イザイ」ですね。

 「2011年の夏にフィリアホールでイザイの無伴奏ソナタ全曲リサイタルをやり、当初は次のアルバムもイザイを考えていたのですが、リサイタルに全力を費やしたので、実際に録音するとなるとしばらく時間を置きたいなという気分になりました。それで、他の候補を色々考えている内に、イザイと親交が深かった作曲家たちというプログラムを思いついたんです。フランクのソナタはイザイの結婚のお祝いのために書かれていますし、フォーレも、イザイの《悲劇的な詩》の献辞に彼の名前が書いてあるように親しい友人です。でもいざレコーディングとなると、それぞれの作曲家が違うキャラクターを持っていて、表現の仕方もまったく異なるので、とても大変でした」

 アルバムでの曲の配列・順番もかなり熟慮されたようにお見受けします。

 「フランクで終わるか、フォーレの《夢のあとに》で終わるかでかなり悩みました。でも、『Fantaisie』というタイトルのように、やはりひとつのファンタジーを見ているようなアルバムにしたいと思ったので、最後に《夢のあとに》を聴き終えて、フッと現実に戻ってくるような感じになるといいかなということで、この並びにしました」

 ダイナミックかつエレガントに情感が揺れ動いて始まるフォーレの第1ソナタは、幕開けにぴったりの傑作。

 「フォーレは、まさにフランスものという感じで、ワインのように、色々な香りがちょっとしたニュアンスで出てきます。ただその感覚を表現するには、細かな弓の使い方とか、スタッカートの長さ、アクセントの位置など、色々考えなければいけない作品ですね」

 フランクも端正でつややかな響きが好感触。第3楽章ではしっとりと歌い込み、クライマックスでも音を強く当てず、柔らかく入って広がりとセンシブルさを活かす。

 「第3楽章の最後にはこだわりがあるんです。ある先生に“ここは偉大に弾いてくれ”と言われたのが強く記憶に残っていて。あれだけドラマティックなレチタティーヴォがたくさんある第3楽章のクライマックスで、“偉大”という言葉が出てきたのがとても印象的で、それ以来いつも心がけています」

 フォーレもフランクも、ピアノが活躍著しい作品である。ピアノにはデビュー盤以来共演を重ねている名手、江口玲が再びフィーチャーされた。

 「江口さんはとにかく音がキラキラしていて、本当に素晴らしいです。また、ご一緒させていただくことで気付かされることも数多く、たとえばフランクでは、カンタービレやドルチェなどの指示がたくさん出てくるのですが、その中にもモルト・ドルチェやドルチェ・カンタービレなど、様々なドルチェの違いをどう考えるかという話をしてくださったんです。明確に性格分けをしてみたことがなかったので、とても面白い発見でした」

 最後に、ハノーファー生活は今後の音楽観に影響がある?と尋ねてみると……。

 「ドイツに行って今一番興味を持ってるのがシューベルトです。実はこれまで日本にいた時には、歌曲などはスッと入ってくるものの、他の作品はどこか少し違和感があり、何となく遠離っていたんです。けれども、ドイツに行ってみたらそれまでとまったく違い、とても人間味のある音楽に聴こえるようになりました。また、私は最も好きな作曲家がベートーヴェンなので、せっかくドイツにいるので勉強したいと思っています。ブラームスもですね」

 

LIVE INFORMATION

大阪フィルハーモニー交響楽団 第61回南海コンサート

○10/13(月・祝) 14:30開演 
会場:大阪狭山市文化会館 SAYAKAホール 大ホール
出演:南紫音(vn)小林研一郎(指揮)大阪フィルハーモニー交響楽団

[都響×アプリコ]小泉和裕&都響 with 南紫音
○11/18(土)15:00開演 会場:大田区民ホールアプリコ
出演:南紫音(vn)小泉和裕(指揮)東京都交響楽団

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