ミシェル・ルグランとの出会いを経て、自らの羽根で飛び立つデビューアルバム
「とても幸せです、夢がかないました。だから、アルバムを作っていて、これで終わりというときがいちばん辛かったですね。もちろん、不完全なところも沢山あると思いますが、その不完全なところも含めて、私の個性ですからね」
カレンヌ・ブリュノンは、日本でのデビュー作となった『私が奏でる愛の旋律』を、こう振り返る。フランスのヴァイオリン奏者で作曲家、そして、歌手としても新しい一歩を踏み出したばかりでもある。パリから電車で約5時間、故郷ピュイ・アン・ヴレを幼くして離れ、リオンでヴァイオリン一色の青春時代をすごす。両親が薦めるピアノではなく、ヴァイオリンを選んだのは、その悲しい音色が好きだったからだ。
「クラシックの世界で生きてきたので、毎日のように規律正しく、自分を律してやっていかなければなりませんでした。そういった意味では、アスリートに似ているかもしれませんね。青春時代はなく、すぐに大人にならされた、それも独立心の強い女性に」と笑う。 ヴァイオリンでは数々のコンクールで優勝、輝かしい道を進んできた彼女が、クラシックに限らず、ポップ音楽にも可能性を広げるようになったのは、フランス音楽界の巨匠、ミシェル・ルグランとの出会いが決定的だった。彼女のヴァイオリンの恩師の紹介だった。それが、「私のプロとしての最初の一歩でした」。他にも、ブライアン・ウィルソンやデーモン・アルバーンなどにも声をかけられ、経験を重ねた。
「他の人の伴奏でヴァイオリンを弾くのは、その人の世界に溶け込んでいかなければならないので、自分を表現するのは難しい。歌は、自分を表現することができます。それに、ヴァイオリンは、私の身体の一部になっているので、完璧な自由があります。声を出して歌うには、緊張があるので、いつもだったら見せずに済む弱い部分とか、心の中の襞のようなものを結果的に見せることになる、それが良いんです」
アルバムでは、バンジャミン・ビオレやケレン・アンといったフランスのポップ音楽界の現代の気鋭が集まった。
「彼らよりは遅れてやってきた妹のような気分ですが、偉大な世代に属しているというのは、とても光栄に思っています。ただ、その重さというか、プレッシャーもあり、そのプレッシャーを軽くするためにも、そろそろ自分の羽根で飛立とう、そんな時期かもしれないと思っています。そのためには、作詞をやろうと思っています」
彼女にとってのその大きな一歩も、既に始まっているそうだ。