「ヴァイオリンは民族の声」などと言われるが、ルーマニア出身のユダヤ系奏者マルコヴィチの演奏を聴いていると、まさにこのことを実感する。濃厚にして翳りの深いヴァイオリンの音色、音楽に渦巻く暗い情念、痛切な祈りの感情、甘美な憧れ。洗練された技巧と音色による国際標準化された演奏とは対極をなす、多様な人間感情をたたえた演奏に全く魅せられてしまった。ルーマニアがまだ共産政権下にあった1973年のステレオ録音。彼女は当時21歳。この後、西側に亡命して演奏活動を続け、近年は教育者としても名高い。名声に比してCDが極めて少ないだけに、このデビュー当時の録音の復活は非常に貴重だ。
シルヴィア・マルコヴィチ、ミルツェア・クリテスク、ジョルジュ・エネスコ・フィル 『グラズノフ: ヴァイオリン協奏曲、ブルッフ: ヴァイオリン協奏曲第1番』 国際標準化された演奏とは対極をなす、多様な人間感情をたたえた演奏
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