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目覚ましい活躍を見せるアジア系女性シンガーソングライターたち

そんなササミ以外にも、活躍目覚ましいアジア系の女性シンガーソングライターを紹介しよう。

ビーバドゥービー

ササミのアイデアとも通じるハードなサウンドでその存在感を示しているアーティストといえば、フィリピン系でロンドンを拠点とするビーバドゥービー(Beabadoobee)。The 1975のマシュー・ヒーリーとも親交が深く、90年代ライクな昔懐かしいタイプの硬質なバンドサウンドと甘い歌声の掛け合わせが独特なアーティストだ。

ビーバドゥービーの2021年のEP『Our Extended Play』収録曲“Cologne”

90年代風、といえば、アメリカ・ワシントン州出身で韓国系のデブ・ネヴァー(Deb Never)も注目の一人。幼い頃に経験した貧困や疎外感をもとに、グランジやエモを想起させる内省的なサウンドや歌声と現代的な感覚を伴ったトラップ風のビートを織り交ぜて表現するスタイルが特徴で、ブロックハンプトンやスロウタイの楽曲にもフィーチャーされるなどラップ/ヒップホップシーンとも親和性が高い。

デブ・ネヴァーの2021年のEP『Where Have All The Flowers Gone?』収録曲“Someone Else”

ミツキ

そしてもちろん、日系アメリカ人のミツキ(Mitski)も外せない。前作『Be The Cowboy』(2018年)で大ブレイクを果たし今や押しも押されもせぬインディースターとなった彼女だが、振り返ってみると、前々作収録の代表曲“Your Best American Girl”(2016年)では、アメリカという国に自身の存在を認めてもらえない葛藤を成就しない恋愛のメタファーを通じて描いていた。その後も一貫して満たされない想いを歌っていることを思うと、彼女の音楽はやはり複数の人種をルーツに持つ自身の行き場のないアイデンティティーを暗喩的に表現しているように思うのである(彼女自身は「その葛藤はもう諦めた」と言ってはいるのだが)。そんなミツキは、女性の強さと抵抗を表したペルソナを歌った前作から打って変わって、よりリアルな愛や許しをテーマにした新作『Laurel Hell』をリリースしたばかりだ。

ミツキの2016年作『Puberty 2』収録曲“Your Best American Girl”

ジャパニーズ・ブレックファスト
Photo by Peter Ash Lee

一方で、ミツキと同時期にシーンに登場し、並べて語られることも多かった韓国系アメリカ人のジャパニーズ・ブレックファスト(Japanese Breakfast)は、昨年、亡くなった韓国人の母親との思い出と共に自身のルーツに思索を巡らせたエッセイがベストセラーとなり、同時に、幸福感にあふれたアルバム『Jubilee』をリリース、主要メディアから高い評価を受けたことも印象的だ。彼女の場合は、アジア系としての自分を強く肯定することでそうした悲しみを克服できたのかもしれない。

ジャパニーズ・ブレックファストの2021年作『Jubilee』収録曲“Paprika”

ジェイ・ソム
Photo by Lindsey Byrnes

また、フィリピン系のジェイ・ソム(Jay Som)も、2019年に『Anak Ko』というタガログ語のタイトルを冠したアルバムをリリースするなど、ルーツに触れることで音楽性を深化させたアーティストの一人である。

ジェイ・ソムの2019年作『Anak Ko』収録曲“Tenderness”