ブラック・カルチャーの歴史を物語る幻のフェスティバルがクエストラブの手で復活!
VARIOUS ARTISTS 『「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)」オリジナル・サウンドトラック』 Legacy/ソニー(2022)
映画本編のラスト・シーンの方で登場するニーナ・シモンが、ステージに登場し力強く鍵盤を叩き唄い出す“バックラッシュ・ブルース”。この曲の冒頭でハーレム・ルネサンスの詩人ラングストン・ヒューズを称えた彼女の心の中には、キング牧師を1年前に失う事で、怒りや嘆きや悲しみ、無力感に囚われダイナミックな運動の速度を落とし停滞してしまった(自分自身をその中の一人として携えた上での)同胞たちの心に向け~〈さあもう一度歩き出しましょう〉という呼びかけがあったのではないだろうか。フィルムの編集と構成(監督)を託されたクエストラブが彼女のステージを一番ラストにもって来たのもそんな彼女の心に共鳴したものだろう。
B.B.キングの燃え滾るような熱いブルース、聖と俗の両方をミクスチャーしたザ・ステイプル・シンガーズのゴスペル、グラディス・ナイト&ザ・ピップスの魂(ソウル)を覚醒させたような躍動感に溢れたソウル。スライ&ザ・ファミリー・ストーンの人種の壁を突き破るような革新的なファンク。二グロという蔑称を拒絶しブラックとしての意識の覚醒を高らかに宣言するようなアフロ・アメリカン・アーティスト達に交じり、ハーレムに於けるコミュニティの隣人ラテン世界からレイ・バレットがその強烈なリズム・サウンドを披露する姿からは、このフェスの後の時代のニューヨークで沸き起こる黒人音楽文化とラテン音楽文化が互いのアイデンティティを認め合いながら融解して誕生したヒップホップ・ムーヴメントの原点を感じ取った人もいるだろう。
本編映画中のライヴをそのままパッケージした本サントラ・アルバムはこれ単独でも素晴らしい。でも、アーティスト達の熱いパフォーマンスと真摯な呼びかけに対し、それを真剣で切実な眼差しで受け止めようとする多くの聴衆の姿を是非本編映画の映像で確認して頂きたい。〈ウッドストック・フェスティバル〉と本映画で記録された〈ハーレム・カルチャラル・フェスティバル〉の決定的な違いは、おそらくそこにあるのではないだろうか。
FILM INFORMATION
サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)
監督:アミール・“クエストラブ”・トンプソン
出演:スティーヴィー・ワンダー/B.B.キング/ザ・フィフス・ディメンション/ステイプル・シンガーズ/マヘリア・ジャクソン/ハービー・マン/デヴィッド・ラフィン/グラディス・ナイト・アンド・ザ・ピップス/スライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーン/モンゴ・サンタマリア/ソニー・シャーロック/アビー・リンカーン/マックス・ローチ/ヒュー・マセケラ/ニーナ・シモンほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン(2021年 アメリカ 118分)https://searchlightpictures.jp/movie/summerofsoul.html