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気持ちの移ろい

 ただし、その光は決して最初からそこにあったわけではない。この2年でライヴやツアーの度重なる中止や延期によって、音楽的にも精神的にもアップダウンを経験した彼女が音楽を創造するなかで見い出した光だ。

 「今回のアルバムは『Sparkle』以降の2年間にシングル、EPでリリースした“言えない”“はじまりの日”“渦”を収録することを前提に制作していったので、コロナ禍の日常が自然と反映されています。プロデューサーのYaffleくんと作った作品の肝となる前半は、“渦”前後の4曲を繋げて、コロナ以降の気持ちの移ろいをストーリーに昇華しました。4曲目の“摩天楼”で日常に戻った後、6曲目の“はじまりの日”以降は日常における些細な気付きをテーマに作った曲を並べて。最後の“The game”でちょっと笑える感じで締め括って、次の作品に繋げたかったんです」。

 スペイシーなトラックと共にコロナ禍の非日常的な日常を浮かび漂う“はずでした”から自分を鼓舞するように作ったエモーショナルなダンス・トラック“渦”、そして“泡”から広がるメロウなギターのアンビエンスと共に平穏を取り戻すと、“摩天楼”ではストリングスを交えたスリリングなグルーヴが都会的な乾きを満たすようにふたたび走り出す。

 「5曲目の“目覚め”はプロデューサーのmabanuaさんと初めてゼロから一緒に曲作りをしました。それ以降の曲は、明るかったり、柔らかかったり、肩の力を抜いて聴ける流れをイメージして、これまで密にコラボレーションしてきた(サウンド・プロデューサーの)Kan Sanoさん、TAARくん、ESME MORIくん、%Cくんと相談しながら曲作りを進めていきました」。

 バンドサウンドを軸に、普遍的な楽曲をめざした“はじまりの日”が象徴するように、アルバム後半の楽曲はiriの原点であるギターの弾き語りから派生した楽曲のオーガニックな響きが日常の心象風景を浮かび上がらせる。

 「今回もいろんなタイプの曲がありますけど、タイトルそのままに、雨の曲がないなぁと思って作りはじめた“雨の匂い”や、初めて両親のことを思いながら作った“baton”のように、自分の声はギターで作った曲がいちばんしっくりくるのかもしれないと改めて思いました。それは演奏していてもそうだし、人の作品を聴いていてもそうなんですけど、自分がいちばん自然体でいられるサウンドというものがあるんだなって」。