バンドのマッドチェスター感を抽出した“Angel, Here We Come”

――約1年前に、今回のアルバムにも再録版が収録されている“スクーター”がシングルとして出ましたよね。バンドとしての手応えが、あの曲にはあったんでしょうか?

Chamicot「そんなに華のある曲ではないけど、なんか良い曲だよね、という感じで出した記憶があります。すごくわかりやすくカッコいい曲、もっと派手な曲をシングルにすることもできたと思うんですけど、“スクーター”はそういう感じの曲ではない。肩の力の抜けた良い曲だし、こういうのもシングルにあるといいよねって。これ、いまもライブでやると楽しいよね」

毛利「そうだね。パッと見、派手じゃないけど、ちゃんと聴いてもらえればステレオガールならではのキラッと感もあるし、力強さもある。私は意外と元気が出る曲だと思うので、シングルカットしてよかったなと思っています」

Chamicot「いわゆる世間で言うところのエモい曲では絶対ないと思うんですけど、しんどいときに聴いても、すっと入ってくるものがあるんじゃないかな。“スクーター”という曲自体は感情を押し付けてこない曲なんですけど、聴いた人の気持ちを曲にふわっと乗せてくれて、それを溢れ出させてくる。そういう力のある曲ですね」

『Spirit & Opportunity』収録曲“スクーター”
 

――アンサンブル的には、ギターのコンビネーションはストロークスっぽさもありつつ、ダンスミュージック感も増していて、バンドが『Pink Fog』のモードと違うところにいるんだなと感じました。

毛利「ストロークスっぽいって初めて言われました。ありがとうございます。音の分離感とかペナペナとした感じかな」

Chamicot「“スクーター”の音の構成とかは、ストロークスに近い面はあるかもしれないね」

――そのあとにリリースした“Angel, Here We Come”は、マッドチェスターというか、あの頃のダンサブルなギターロックという感じ。このへんはステレオガールの十八番な印象もありつつ、すごくカッコよくやってますよね。

毛利「そうね。これとかは特に、いままでのイメージとかを強調してる感じがあると思います。でもお家芸みたいになっちゃうと恥ずかしいな(笑)」

Chamicot「“Angel, Here We Come”は、『Pink Fog』から出てきていた、このバンドのマッドチェスターっぽさを一個にぎゅっとまとめたみたいな曲だと思います。でも、アルバムのなかには他の方向性に広がっている曲もある。今回はそういう広がりを持った良いアルバムなのかなと思いますね」

『Spirit & Opportunity』収録曲“Angel, Here We Come”
 

――確かに。マッドチェスター~セカンド・サマー・オブ・ラブ的な音楽って、ここ数年で再評価されているじゃないですか。

Chamicot「えっ、そうなんですか。私の耳には、それは入っていなかったです。そんなムーブがあったんですね」

――パーケイ・コーツというNYのバンドがいるんですけど、彼らの去年出したアルバム『Sympathy For Life』ではマッドチェスター的なギターロックに取り組んでいて。あとロードが去年出したアルバム『Solar Power』にはプライマル・スクリームの『Screamadelica』(91年)っぽいバイブスがあったりとか。でも、そのあたりの潮流をまったく意識してなかったというのは意外です。

Chamicot「全然耳に届いてなかった。ちょっとしっかりチェックします」

毛利「私自身は、妹の影響で去年はクラブミュージックとかをよく聴いていたんですけど、やっぱり、生ドラムと生ギターと生ベースで踊りたいという人は絶対いると思うんです。ダンスしたいという気持ちは、みんなのなかにあると思うし、バンドでそれをやれるっていうのは喜ばしきことかなと思いますね」

 

もっともっとダンスしたい

――ここ数年でダンスミュージックやダンスカルチャーに興味を持っている若いリスナーが増えた印象はあります。そのほかに『Pink Fog』以降に、おふたりが聴いていた音楽はどんなものがありますか?

毛利「私は去年、めっちゃフィッシュマンズを聴いてました。『映画:フィッシュマンズ』が公開されたタイミングというのもあったけど、もともとフィッシュマンズはすごい好き。私はAudio Activeとかドープなジャパダブも好きなんですけど、フィッシュマンズは〈日本語の歌〉としてもすごいですよね。私たちと全然アプローチは違うんですけど、彼らのバランス感を目標にしているかも」

――新作だと4曲目の“PARADISO”には、若干レゲエの要素が入っている気がしたんですよ。

Chamicot「そうですね。バンドとしても、ちょっとそういうノリがきてるかもしれない」

毛利「いま作っている曲のほうが、さらにそういう要素が出てきてるんじゃないかな」

Chamicot「“PARADISO”でそれを感じられるのは、Rikuちゃんのベースの動きかもしれないね。あの人も、昔からフィッシュマンズを好きだと言ってたもんね」

『Spirit & Opportunity』収録曲“PARADISO”
 

――“PARADISO”のドラムのスネアにもっとリバーブがかかっていたりしたら、めちゃくちゃレゲエっぽくなりそうだなと思いました。

Chamicot「誰かリミックスを作ってくれませんかね(笑)。パラデータは躊躇なく渡しますんで」

――ダンスミュージックのトラックメイカーの人には、90年代のマッドチェスターやレイヴのシーンから影響を受けた人が多いですし、そういう人たちが聴いても、この作品は何か響くものがあると思うんですよね。

Chamicot「ぜひ聴いてくれ」

毛利「聴いてほしい。私ももっともっとダンスしたいし、もっとそういうのを出していきたいなー。深読みしなくても、身体でわかってもらえるような音楽を作りたいです。ジャンル=オルタナティブダンスみたいな」

Chamicot「我々で新しいジャンルを作るのがいいよね(笑)」