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全員にとって何がベストか考えた

 ロックダウン中には、イヤーズ&イヤーズというグループ自体の在り方も見直され、今作からはオリーひとりのワンマン・プロジェクトとして再始動。グループ活動が停止していた間に、それぞれのメンバーがじっくり考えて下した決断だったという。

 「10年近くも前の始めた頃とは、いまのグループではまったく違っているからね。メンバー全員がそれぞれ成長したし、音楽的な方向性が乖離していって、やりたいことが違ってきてたんだ。以前からそういう話はあったけど、ロックダウンで別々に過ごす時間が増えて、全員にとって何がベストかを改めて考えたんだ。もちろんいまでもいい友人だし、それは変わらないよ」。

 今後はエムリ・タークメンはプロデューサー業に専念し、マイキー・ゴールドスワシーは引き続きライヴのみに参加。むしろイヤーズ&イヤーズやオリーにとって大きな存在なのは、デビュー当時からのプロデューサー、マーク・ラルフではないかと思う。クリーン・バンディットやジャックス・ジョーンズらを手掛けるマークは今回の新作『Night Call』にも全面参加し、彼が関わったジョージア(レフトフィールドのニール・バーンズの娘で、デビュー・アルバム『Seeking Thrills』が素晴らしい)も顔を覗かせる。その他、前述の先行シングル“Sweet Talker”にはEDM界のキラキラ・デュオ、ギャランティスが参加していたり、ボートラ収録の“A Second To Midnight”と“Starstruck”のリミックスには歌姫カイリー・ミノーグが顔を覗かせる。

 「最高の体験だったよ。カイリーはまぎれもなくアイコンだし、心の温かい人でもあるんだ。彼女と一緒にいるだけで幸せな気持ちにさせられる。あんなに品位があって、優しさに溢れる人が、ずっと何十年にもわたって世界的なヒットを出し続けているってこと自体が凄いと思うんだ」。

 カイリーをはじめ、エルトン・ジョンやペット・ショップ・ボーイズ、レディー・ガガに至るまで、関わってきた先輩たちの顔ぶれを追っていくと、オリーの次世代LGBTQスターとしての立ち位置もおのずと見えてくる。アルバムのジャケでは人魚に扮して、キッチュなゲイネスが全開だ。

 「もともと人魚が大好きで、このアルバムでは人魚が僕のミューズとなってくれたよ。ひとりで海辺の岩の上に佇んで、歌で人々を誘惑するっていう人魚のイメージがインスピレーションになっている。もちろん人魚の格好をしたかっただけで、その言い訳っていう話もあるけれど(笑)」。

 今回の『Night Call』は、リリースと同時にすぐさま本国イギリスで1位を獲得。クラブに行けないコロナ禍から産み落とされたダンス・アルバムとしては、デュア・リパの『Future Nostalgia』、レディー・ガガの『Chromatica』、カイリー・ミノーグの『Disco』、ローラ・マヴーラの『Pink Noise』などに並ぶ好盤ではないかと思う。ここは騙されたと思って、人魚の歌声に身を任せ、誘惑されてはどうだろう。

イヤーズ&イヤーズのアルバム。
左から、2015年作『Communion』、2018年作『Palo Santo』(共にPolydor)

 

『Night Call』に参加したアーティストの作品。
左から、ギャランティスの2020年作『Church』(Big Beat)、ジョージアの2020年作『Seeking Thrills』(Domino)