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混沌とした感情

 ドラッギーで狂気じみたリリックはウィークエンドの通常運転と言える。“Gasoline”では、〈首を締めつけられるのは大好きだろ〉と迫り、〈(オーバードーズで)息を引き取ったらシーツで俺の死体を包んでガソリンをぶちまけてくれ〉などとアブノーマルな窒息プレイも連想させる。他にも、離れていった女性への未練や二股された苦悩だったり、その一方で悟りを開くなど、混沌とした感情をスムースでテンポの良いサウンドに乗せて歌っていく。サウンドは、前作での“Blinding Lights”のように80sシンセ・ポップやユーロ・ディスコをEDM以降の感覚で捉え直したダンス調がメインで、曲によっては前作以降に客演した楽曲などとの連続性もある。“Best Friends”がポスト・マローンとコラボした昨年の“One Right Now”に、また、エムトゥーメイ風のソリッドなグルーヴが心地良いリル・ウェイン客演のミッド・ファンク“I Heard You're Married”は、制作に関与したカルヴィン・ハリスとの“Over Now”に通じていたりと、近年のコラボがキッカケとなって生まれた曲もありそうだ。

 “How Do I Make You Love Me?”の制作にはスウェディッシュ・ハウス・マフィアが関与。これは彼ら主導で出た昨年10月の共演シングル“Moth To A Flame”に通じる抑制の効いたEDMだ。そして、同曲後半の4つ打ちキックが橋渡しとなってシームレスに繋がる先行シングル“Take My Breath”は、シンセのリフやビートがセローン“Supernature”(77年)を思わせるトランシーなユーロ・ディスコ。フレンチ~ミュンヘン・ディスコ風の無機質なグルーヴは“Sacrifice”(日本盤にはスウェディッシュ・ハウス・マフィアのリミックスも収録)へと受け継がれ、亡きマイケル・ジャクソンが憑依したかのような清々しいヴォーカルを聴かせる。

 それに続くのがクインシー・ジョーンズのモノローグ“A Tale By Quincy”というのも心憎い。ここでクインシーが語るのは、少年時代に継母から受けた虐待と、それがトラウマとなって恋愛~婚姻関係にあった女性たちを遠ざけてしまう癖。ファンにはお馴染みの話だが、ヘヴィーな過去を他人の作品で語るクインシー、それを御大に語らせるウィークエンド、どちらも常人離れしている。自己を解放するようなクインシーの語りをアルバム中盤に挿むことで、〈苦しみを解き放って天国に向かいましょう〉という、リスナーに対してのメッセージにもなっているのだろう。ユーロ・ディスコ風のアルバムにモノローグを挿む形式としては、ジョルジオ・モロダーの語りが入るダフト・パンクの『Random Access Memories』(2013年)にも近い。以前“Starboy”などにダフト・パンクを招いたウィークエンドだけに影響を受けた可能性もある。