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祈りのようなもの

 そうして始まった〈Act 1〉は、コロナ禍が迫る時期に発表した“星をあつめて”で一旦終幕。そこから、アフターコロナのパラレルワールドが朗読される“Logos”をプロローグに、〈Act 2〉の舞台は2020年の現実世界へ──。同曲との3部作とも言える“Pathos”“Ethos”と併せ、ここに映るのは困難な局面と真摯に向き合うバンドの姿だ。柔らかな光を帯びたポップソングながら、towanaの〈悲しくない話をしよう〉という歌詞がギリギリのポジティヴィティーを伝える“Pathos”。そして、公募により450本以上集まったというコーラスがゴスペルのように重なる“Choir Caravan with fhánamily”からシームレスに続く“Ethos”は、飛翔感のある4つ打ち上で放つ切実な叫びが聴き手の胸を揺さぶる。

 そんなエモーションを引き受けてのフィナーレは、“Cipher.”と対になる位置付けの“Zero”。猛々しく唸るギター、緊迫したシンセの響き──4人が鳴らすリアルタイムの〈現在〉は、かつてないパワーとオルタナな質感を纏っている。

佐藤「“Air”の後にもうひとつ新曲を作ろうとしていた2月の終わり頃、国際的な秩序がリセットされるようなことが起こってしまって。その暴力的な現実にショックを受けて出来たのが“Zero”です。林君には〈いまの世界の緊迫感をそのまま歌詞にしてください〉とお願いしました。“Cipher.”は原点回帰のゼロですけど、こっちはカウンターリセットのゼロ。なので、当初は“Cipher.”をアルバムの最後に置こうと考えていたところを変えて、“Cipher.”を1曲目に、“Zero”を最後にすることで、ちょうど円環みたいな構成になりました。曲としては、“Zero”は手癖の集大成みたいなものです。仮タイトルはレディオヘッドの〈レディオ〉でしたから、しかもギター・ロック時代の(笑)。林君にデモを送ったら、〈スマパンを感じました〉とも言われました。まあ、ドラムはだいぶジミー・チェンバレンっぽさがありますね(笑)」

waga「俺、バンドでレディオヘッドがいちばん好きなんですよ。で、趣味で〈レディオヘッドのこの曲のこのギター〉みたいな音をリストにしてるんですけど、今回はそれを全部引き出してきて、リスペクトを込めて演奏しました」

kevin「“nameless color”の音の質感を僕はけっこう踏襲してるんですよね。具体的には何だろうな?」

佐藤「Aメロの合いの手みたいなピチカートの音とか、サビの前のシュワシュワしたビルドアップ的なFXとか。あと、遠くで鳴ってるサイレンみたいなリード・シンセの音色も危機感を煽る感じでいいですよね」

towana「私は、歌っていると情景が頭に浮かんできて……現地にいるわけじゃないのに心が痛んで、けっこうキツかったです。でも、〈もっと切実に強く〉っていうディレクションがあったので、自分なりに精いっぱい歌いました」

佐藤「“Zero”は、まだ混乱してる曲なんですよ。状況が収束したり総括できているわけではない。でも旅は続けなきゃいけないし、闇に火を灯すことをやめてはならない。ここにあるのはそういう祈りのようなもの。見失いそうな希望を離さないよう手を伸ばしている、そんな感覚なんです」