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自由奔放に描かれた音

THE SMILE 『A Light For Attracting Attention』 XL/BEAT(2022)

 そしてついに、ザ・スマイルは待望のファースト・アルバム『A Light For Attracting Attention』を作り上げた。結論から言ってしまうと、本作を何かしらのジャンルで括ることは不可能だ。強いて言えばポップという他なく、それほどまでに多くの要素が行き交い、いくつもの文脈や観点から楽しめるサウンドが鳴っている。たとえば、エレクトロニック・ミュージックの要素が濃いロックとして聴く人は、レディオヘッドの『Kid A』や『Amnesiac』を脳裏に浮かべるだろう。あるいは、作品全体に漂うジャズ要素の濃さに目を向けるなら、ナサニエル・クロスやテオン・クロスといった演奏家がクレジットされていることも相まって、盛り上がりが高まる一方のUKジャズ・シーンとの共鳴を見い出すはずだ。

 そのうえで言うと、本作を特定の文脈に紐づけながら聴くのは非常にもったいないと感じた。『A Light For Attracting Attention』は首謀者のトム・ヨークがいま描きたい音を自由奔放に描いたアルバムだからだ。曲ごとにアレンジや曲調がガラリと変化する内容は、下手すると散漫と言われかねないものだ。しかし、そうした意見は無粋だと思わせるほど、本作の楽曲群は質が高い。各曲に興味深いアレンジや音色が施され、繰り返し聴きたくなる音作りの精巧さが光る。こういった側面に触れると、彼らにまつわる前知識を脇に置いてから聴いたほうが、先に書いた自由奔放さを素直に受け止められるし、より深く楽しめると思えてならない。