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説明不要な現在進行形のレジェンドが生み出した問答無用のアイコニックな大名盤――『Kid A』と『Amnesiac』がひとつの作品として降臨! 時代を創った音楽は20年の時を越えて現代にどう響く?

ポップに受容された先鋭性

 90年代から長きに渡って世界的な人気と高い影響力を誇るレディオヘッド。2019年には〈ロックの殿堂〉入りも果たした堂々の大御所バンドながら、現時点での最新作『A Moon Shaped Pool』(2016年)に至るまでコア層の別格視と商業的な成功を両立させ続けている姿は驚異的という他ない。そんな特別な存在であるがゆえの再検証プロジェクトとしては97年の金字塔『OK Computer』の20周年記念盤『OK Computer OKNOTOK 1997-2017』も記憶に新しいが、それに続くリイシュー企画が、このたび登場する『Kid A Mnesia』だ。これは米Rolling Stone誌の選ぶ〈2000年代のアルバム・ベスト100〉でも堂々の1位に君臨した4作目『Kid A』(2000年)と、同じ録音セッションから生まれた5作目『Amnesiac』(2001年)という2つのアルバムをセットにし、ボーナス・ディスクを付属したCD/LP3枚組の大作となる。

RADIOHEAD 『Kid A Mnesia』 XL/BEAT(2021)

 言うまでもなく『Kid A』と『Amnesiac』は彼らの先進的なイメージを決定づけた2タイトルだ。とりわけオフィシャルの資料にも〈発売当時、ギター・ロックのフォーマットを捨て去りエイフェックス・ツインやオウテカなど先鋭的なエレクトロニック・ ミュージックを取り入れた作風で物議を醸した〉と記されている前者が、『OK Computer』からの急進的な飛躍ぶりで〈問題作〉と騒がれた当時の状況を記憶している人もいるかもしれない。とはいえ、彼らの野心的な変化は初作から2作目に向かう時点ですでに始まっていたわけだし、リアルタイムで楽しんでいたリスナーがそうした変化を受容する雰囲気があったのは確かで、当時のメディアらしい大仰なラベルをいつまでも貼り付けておく必要はないだろう。

 そもそも当時のレディオヘッドは『OK Computer』(彼らのフィジカル盤で最大のセールスを記録)によって人気を世界規模に広げており、すでに彼らをプログレッシヴな音楽集団として歓迎する柔軟な支持基盤を築き上げていたように思う。また、その延長線上にある『Kid A』が本国UKのみならず初めて全米チャートをも制したという事実は、彼らの挑戦が率直にポップなものとして認められたということを示すものだ。続く『Amnesiac』も初週セールスで前作を超えているし(日本でもオリコン総合2位を記録)、そのヒット以降に多方面でリサイクルが増えはじめた様子も、世界的なヒット作としての位置付けを物語るのではないか。

 

モダンな親しみやすさ

 そもそも『Kid A』と『Amnesiac』に分かれたマテリアルがひとつのアルバムにまとまらなかった理由として、当時のトム・ヨークは「そんなことしたら曲をブチ壊すことになったと思うよ。1枚のアルバムにまとめようとしたけどダメだったんだから。で、それぞれの曲が勝手な方向に向かっていく形に持っていったんだ」(bounce 2001年6月号より)と語っていた。今回の『Kid A Mnesia』は、そうして自然に分岐していった楽曲群を改めて対比できる機会でもある。

 同じ屈折した空気を窺わせながらもエッジーな電子音やエディット感の強さを特徴とした『Kid A』では、アイコニックで不穏な“Everything In Its Right Place”や“The National Anthem”を筆頭に、いわゆる〈バンドらしさ〉を気にすることのない楽曲が魅力を発する。一方の『Amnesiac』では淡々としたトーンながらも加工を抑えて比較的〈バンドらしさ〉に揺り戻している印象だ。美しい“Pyramid Song”や浮遊感のあるギター・ポップ“Knives Out”を含み、ジャズやブルーグラスなど伝統的な音楽の要素も溶かし込んだ風情は現代のUSインディー風のモダンな聴き心地でもある。こうしてセットにされることで、それぞれが独立したアルバムとして纏った風格や意味も改めて伝わってくるが、いずれにせよ彼らが創意工夫を凝らして新境地に達した意欲的な作品群であるのは間違いなく、決まり文句のようなイメージを取り払ってみれば、絶妙に親しみやすい表情も見えてくるはずだ。

 なお、今回の『Kid A Mnesia』においては〈Kid Amnesiae〉と題されたDisc-3も収穫に違いない。完全な未発表曲“If You Say The Word”をはじめ、ライヴで数回披露されたのみで音源化が待たれていた“Follow Me Around”(98年のビデオ作品『Meeting People Is Easy』でも聴けた)など、12のトラックには掘り進めるに相応しい歴史が詰まっている(日本盤CDにはシングルのB面曲5つもボーナス収録!)。何にせよ、例えばアーロ・パークスやジョーダン・ラカイがレディオヘッドを普通に取り上げている2021年、本作を入口にいまからこの偉大なバンドに触れてみてもまったく遅くはない、と思う。

左から、レディオヘッドの2000年作『Kid A』、2001年作『Amnesiac』、97年作『OK Computer』(すべてParlophone/XL)

 

関連盤を紹介。
左から、クリストファー・オライリーの2003年作『True Love Waits: Christopher O'Riley Plays Radiohead』(Sony Classical)、2006年のトリビュート盤『Exit Music: Songs With RadioHeads』(BBE)、フライング・ロータスの2010年作『Cosmogramma』(Warp)、ジョーダン・ラカイの2021年のミックスCD『Late Night Tales』(Late Night Tales)

 

その影響力と拡張性から改めて考える、いま『Kid A Mnesia』を聴く意味

 改めて『Kid A』と『Amnesiac』を聴いて興味深いと思えるところは、ジャンルという境界線を意に介さない折衷的音楽が当たり前となった現在のポップ・ミュージックをいち早く予見していた点だ。クラウトロック、エレクトロニック・ミュージック、アンビエント、ジャズ、クラシックなどさまざまな要素をさまざまな観点から解釈/再構築したサウンドは、単一のタグで括ることが困難な音楽で溢れる2021年に聴いても惹かれる側面が少なくない。タンジェリン・ドリームやクラフトワークの電子音に影響されたデヴィッド・ボウイが『Low』(77年)でロックのあり方を拡張したように、レディオヘッドは『Kid A』と『Amnesiac』によってロックという枠組みを飛躍的に広げた。

 その功績はロックの文脈のみならず、ポップ・ミュージック全体から見ても無視できないものだ。だからこそ、ジャンルを問わずに多くのアーティストがレディオヘッドの曲をカヴァーし、あるいはサンプリングする。なかでも筆者がよく聴いたカヴァー曲は、ブラッド・メルドー・トリオの“Everything In Its Right Place”(2004年)だ。原曲よりも緊張感が抑えられ、代わりに甘美さが際立つ曲調は、収録アルバムである『Kid A』が持つジャズ要素を抽出し、より明確な形で示したという意味で必聴と言える。ノルウェーのシンガー・ソングライター、アーネ・ブルンによる“How To Disappear Completely”のカヴァー(2017年)も秀逸だ。幽玄な響きのピアノとヴォーカルが中心のシンプルなプロダクションは、アンビエントやドローンとして楽しめる。

 サンプリングではフランク・オーシャンの“Bitches Talking(Metal Gear Solid)”(2011年)が有名だろう。『Kid A』収録の“Optimistic”をネタにしたこの曲は、22秒という短い曲でありながら、レディオヘッドが後世に与えた影響を語る際によく言及される。フランク・オーシャンはSpotifyのイベントでも“Fake Plastic Tree”をカヴァーするなど、他のアーティストと比べてもかなりのレディオヘッド好きだ。さらにはマッシュアップという手法を世に知らしめたガール・トーク、現代のジャズ・シーンを牽引しているロバート・グラスパー、2017年に事故で亡くなったラッパーのリル・ピープといった者たちがレディオヘッドの曲をネタ使いしている。

 『Kid A』と『Amnesiac』以降のレディオヘッドは、クラブ・カルチャーの畑で活躍するアーティストを積極的にピックアップしてきたことも見逃せない。特にフロントマンを務めるトム・ヨークはモードセレクターの『Happy Birthday!』(2007年)と『Monkeytown』(2011年)に参加し、アンダーグラウンド寄りのダンス・アクトとも深い交流を果たしている。2006年にリリースしたソロ作『The Eraser』のリミックス・アルバム『The Eraser Rmxs』も、ブリアル、バグ、フォー・テットなどをリミキサーに迎え、クラブ・シーンの音楽を幅広く聴いているのがわかる内容だった。

 こうしたトムの嗜好はレディオヘッドの活動にも影響を及ぼしている。それが明確な形として表れた作品のひとつが『TKOL RMX 1234567』だ。2011年のアルバム『The King Of Limbs』のリミックスをまとめた作品で、ピアソン・サウンド、ジェイミーXX、ブラワン、マーク・プリチャード、オブジェクトといった幅広い世代のリミキサーが並ぶ。

 『Kid A』と『Amnesiac』を生み出したことで、レディオヘッドは〈ロック・バンド〉という軛から解放され、ロックも含めたあらゆる要素で彩られた音楽を鳴らすポップ・バンドに進化した。そのようなバンド像を築いたおかげで、レディオヘッドへの愛情を公言する1975も、ロック・バンドからポップ・バンドへ変わっていくキャリアを歩めているのかもしれない。このような強い影響力を再確認し、レディオヘッドをより深く理解できるだけでも『Kid A Mnesia』は価値ある作品だ。 *近藤真弥

左から、ブラッド・メルドー・トリオの2004年作『Anything Goes』(Warner Bros.)、アーネ・ブルンの2017年作『Leave Me Breathless』(Balloon Ranger)、ロバート・グラスパーの2007年作『In My Element』(Blue Note)、フランク・オーシャンの2012年作『Channel Orange』(Def Jam)、モードセレクターの2007年作『Happy Birthday!』(Bpitch Control)、ブリアルの2007年作『Untrue』(Hyperdub)、レディオヘッドの2011年作『TKOL RMX 1234567』(Ticker Tape Ltd./XL)、ピアソン・サウンドの2015年作『Pearson Sound』(Hessel Audio)、ジェイミーXXの2015年作『In Colour』(Young)、1975の2020年作『Notes On A Conditional Form』(Dirty Hit/Polydor)