ヤナーチェクの傑作オペラ「イェヌーファ」、その日本語字幕付きの映像が今望みうる最良のキャストで味わえる。ベルリン国立歌劇場の無観客公演、かつディスタンスをとらなければならない状況を逆手にとった演出が冴える。悲劇を生む一因の〈世間の目〉を歌う合唱が客席に配置され、会場全体から歌声が響く。舞台はひんやりとした空気を醸し出し、音楽を引きたてる。ヤナーチェク演奏に一際自信を持つ、切れ味鋭いサイモン・ラトルの指揮に導かれ歌手が作品に集中して表現している。中でも影の主役といえるコステルニチカを歌うエヴェリン・ヘルリツィウスの狂気の演唱が心を抉る第2幕終盤が素晴らしい。