© Monika Rittershaus

2017年11月に行われたラトル指揮による来日公演のライヴ録音がSACD Hybrid盤で登場!

 ベルリン・フィルが、デジタル・コンサート・ホールを開始したとき、「自主レーベルを作ってディスクを出すオーケストラが増えたけど、うちは配信。しかも映像」と言ったソロ・チェロ奏者でメディア代表のマニンガー氏の得意顔が未だに忘れられない。そんな最先端を邁進するベルリン・フィルだが、CDもぬかりなく出し続けている。それらは、パッケージやライナーノーツもラグジュアリー感たっぷりで、映像などの付録も盛り沢山。演奏会の思い出を手元に置いておけるモノとして、ディスクを位置づけているのだろう。

SIMON RATTLE,BERLIN PHILHARMONIC ORCHESTRA アジア・ツアー2017~ライヴ・フロム・サントリーホール Berliner Philharmoniker(2018)

 今回の新譜『ベルリン・フィル アジア・ツアー2017』は、そうした性格がもっとも色濃い。ラトルが首席指揮者・芸術監督としてベルリン・フィルを率いての最後のアジアへのツアーにおけるプログラムを全曲収録。さらに、公演やドキュメンタリーの映像、ハイレゾ音源のダウンロード・クーポンも含まれている。実際に演奏に接した人には、格別なメモリアルになるだろうし、そうでない人にもこのツアーに帯同しているような気にさえさせる。あたかも高級な料亭で食事をした後に、土産として家庭に持ち帰る弁当のよう。

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 その中身のクオリティは高い。高級食材、いや、名手揃いが怪物級のソロと巨大なアンサンブルを聴かせるストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」、マニアックなまでの細かさと、太々とした響きが不思議な調和を帯びるブラームスの交響曲第4番、構造を鋭く描き、エレガントに歌うラフマニノフの交響曲第3番。スーパー・ヴィルトゥオーゾ軍団によるチン・ウンスクの《コロス・コルドン》も実に贅沢な響き。そして、ユジャ・ワンとチョ・ソンジンという、まったくスタイルの異なるピアニストとの共演も刺激的だ。

 ドキュメンタリーで、ラトルは「ツアーのピークを日本公演にもってきた」と語っている。そのサントリーホールで音源のライヴ録音が行われたのも、じつに嬉しい話ではないか。