マリンバ音楽の世界を拡げる、2人の作曲家に注目するプログラム
クラシックをベースにジャンルを超えて積極的な企画公演を打ちだしている神奈川県立音楽堂が、本年よりスタートさせる新シリーズ〈新しい視点〉。プロ・アマを問わずに一般から公募した企画による〈紅葉坂プロジェクト〉と、音楽堂によるプロデュース公演の2本立てとなるこのシリーズだが、本年のプロデュース公演はマリンバにフォーカスを当てた〈ダブルポートレイト・フォー・マリンバ・アンド・ザ・フューチャー〉だ。日本の作曲家の中でも数多くマリンバのための作品を世に送り出している一柳慧と、アルゼンチン出身で現在イギリスを拠点に活躍し、〈リズムの魔術師〉の異名を持つ作曲家、アレハンドロ・ヴィニャオの作品を取り上げ、2つの側面から多様なマリンバの世界を浮かび上がらせようというこの企画では、ヴィニャオも25年振りに来日して、一柳とのトーク・セッションを行うという。
今回、県立音楽堂での公演を皮切りにアレハンドロ・ヴィニャオ作品による公演が名古屋、東京でも行われる。これら3公演の企画構成に携わったのがマリンバ奏者の小森邦彦。これまでも多数の作品を委嘱してきた小森は先日の記者会見で「まだ歴史の浅いマリンバ音楽は、現代性を宿命に持つ。そんなマリンバの世界に多く貢献している2人の作曲家に焦点を当てた。この2人の作品をマリンバを通して後世に継承するのは演奏家の務め」と語る。
出演は小森の他にフルーティストの橋本岳人。クラリネット奏者のブルックス信雄トーン。ピアニストの岡本麻子、そして次世代のパーカッション・グループであり、以前からアレハンドロ・ヴィニャオ作品も採り上げていて造詣が深いN Percussion Group。予定されているレパートリーは、来年90歳を迎え、1950年代からマリンバのための作品を発表し続けている一柳の作品から90年代前後の3作品。そして今年70歳のヴィニャオ作品からは、ピアノとマリンバがスリリングな展開を見せる“リフ”と、4台のマリンバ、ヴィブラフォンと打ち込みによるビートが絶妙なグルーヴ感を紡ぎ出す“ブライト アンド ダーク”。そして是非注目したいのは今回が世界初演となるフルートとクラリネットと打楽器とエレクトロニクスのための“ファイナル デ フレーズ”(2020)だろう。
小森は「ヴィニャオ、そして一柳慧による音楽のマグマが最高点に達する、その瞬間に同席してもらいたい」と語った。それを期待して足を運びたい。
LIVE INFORMATION
シリーズ「新しい視点」ダブルポートレイト・フォー・マリンバ・アンド・ザ・フューチャー
2022年7月10日(日)東京・横浜 神奈川県立音楽堂
開場/開演:14:30/15:00
出演:小森邦彦(マリンバ)/橋本岳人(フルート)/ブルックス 信雄 トーン(クラリネット)/岡本麻子(ピアノ)/N Percussion Group(パーカッション)/一柳慧(神奈川芸術文化財団芸術総監督)(トーク)/アレハンドロ・ヴィニャオ(トーク/エレクトロニクス)
■曲目
一柳慧:共存の宇宙 マリンバとピアノのための(1992)
アレハンドロ・ヴィニャオ:リフ~マリンバとピアノのための~(2006)
一柳慧:アクアスケープ 独奏マリンバ、フルート、ピアノ、2人の打楽器奏者のための(1992)
アレハンドロ・ヴィニャオ:ファイナル デ フレーズ フル ートとクラリネットと打楽器とエレクトロニクスのための(2020)〈世界初演〉
一柳慧:風の軌跡 3人の打楽器奏者のための(1984)
アレハンドロ・ヴィニャオ:“ストレス アンド フロー”より「ブライト アンド ダーク」 打楽器カルテットとエレクトロ ニクスのための(2018)
(曲順不同、都合により変更の場合もありえます)