世界初演《ピアノ協奏曲第6番》は作曲家自身による演奏で!
〈コンポージアム2016〉は〈一柳慧を迎えて〉。
プログラムの聴きどころのひとつは、規模が大きく、17年ぶりの再演となる交響曲“ベルリン連詩”と、書き下ろしの新作である“ピアノ協奏曲第6番”、そのほとんど中間にある“ビトゥイーン・スペース・アンド・タイム”と、作曲家のほぼ四半世紀の歩みが一望できるところだ。
「時代や社会が大きく変化し、音楽もポスト・モダンとよばれるような何でもありが許容される30年間でしたが、30歳年をとる間に、新しいものへの関心や、挑戦する気持が強くなってきたと言える面もあるように感じています。80歳台半ば近くなって、協奏曲めいたものを自分で弾くというのは、問題だとも思いますが、内部奏法や図形楽譜で書かれている不確定な部分は、そういう演奏を行うピアニストや作曲家が少なくなってきているのでやむをえない面もあります」
これまでの協奏曲とはかなり異なっているとか?
「弦、打、鍵盤というピアノの可能性を生かした曲を書ければという思いがありました。ピアノは殆んど完成された楽器とみなされていますが、もう一度発展途上の楽器という視点から、オーケストラとの関係を考えてみるという発想も包含しています」
これまでは五線譜で書かれていらっしゃいました。
「いままではほとんど鍵盤だけでした。4番は山下洋輔さんなのでアドリブがはいったけれど、あとはオーソドックスな現代音楽とでも言いますか。この6番は内部奏法が半分以上はいります。ピアノも内部奏法用のピアノを借りていただくことになっています。ちなみに、4番が山下さん、5番が舘野泉さんの左手のための協奏曲なので、そのあたりからふつうのピアノ・コンチェルトからはずれてきましたので、6番はもう少し踏みこんで、ということもあるかと(笑)」
楽章は……
「楽章形式でなく、セクション別で構成しています。オーケストラは出と入りの時間を除いては、五線譜で書いていますが、ピアノの内容や時間は、自由度や一回性を重んじて、決定していない要素もカデンツァのように現われます。セクションの選択や、進行の順序は冒頭のはじまりを除いては、自由にしてあります」
今回不確定的要素を含んだ作品をやろうと考えたのは……
「1曲ずつ形は違いますが他にも何曲もありますので、特に意識はしていません」
大勢の前で内部奏法を一柳さんがというのはあまりない機会ですね。伝説的でもある。〈コンポージアム〉の少しあとにアンサンブル金沢で交響曲第10番が初演されるということですが。
「オーケストラ・アンサンブル金沢は、岩城宏之さんのおかげで、多くの日本人作曲家に対して作品委嘱が行われ、彼の指揮で何回も演奏されました。今年は岩城さんが亡くなって10年目にあたるので、彼をイメージした作品、彼は指揮者になる前は打楽器奏者であり、又晩年には再び打楽器奏者としてもカムバックして演奏されました。シンフォニー10番はその岩城さんのイメージを連想させる1楽章形式のオーケストラ曲です」
“ベルリン連詩”は、日本語がありドイツ語がある。異なった詩人のテクストが並行して扱われ、多言語状況をつくりだしています。詩が書かれたベルリンという場と時間ということでも、一柳さんが考えていらっしゃった時間と空間の交差がべつのかたちであらわれた作品とおもっています。
「私はできれば音楽で、これ迄時間に片寄っていた音楽を、時間と空間両者を相互浸透するものにしたいと思い、試行錯誤してきたのですが、昔の連歌や連句も、複数の作者が受け継いでつくってゆく時間的要素と、内容の空間的イメージが共存するもので、“ベルリン連詩”では、その考え方と特徴を、音楽に転じて作曲しています。その点で多くのことを俳諧から学びました。結果として私のオーケストラ作品の中では一番大きな曲になっています」
〈武満徹作曲賞〉についてもうかがわせてください。一柳さんがコンクールで選ぶときの基準はどこにおありでしょうか?
「今回、97作を審査したので千差万別でしたが、良かったな、と思うのは、若い人達の作品が、真摯に書かれている、殆んど全員がそうでした。もう少し入選者が増えてもいいくらい。オーケストラにとっては、将来、存続していけるかどうかという時代に、世界の若い人達が希望をもって書いている作品を見れて良かったと思っています」
5月20日(金)の関連公演、〈一柳慧 ミュージック・ホリスティック〉では5つの室内楽的な編成の作品が集められています。作曲年代でいえば、70年代終わり(“シーンズII”が1979年)がもっとも以前のもので、五線譜で記された作品が中心になっています。
「こちらのコンサートはマネージメントの東京コンサーツからの提案によっています。五線譜で、ということですけど、ちょっと変わったところもある。よくみていただきたいのですが……」
あ、“弦楽四重奏曲第3番「インナー・ランドスケープ」”が……
「ええ、もともとチェロの多井智紀に“3番”をやってくれと頼んだんですね。すると、彼もさるもので(笑)、全然弦楽器じゃない人を集めてきた。しかも多井くんはチェロじゃなくて、第一ヴァイオリンになっている。どの程度どうなる、まったく、いまのところ想像がつかない。多井くんがやっていることは常々おもしろいとおもっているので、まあ、多少ヘンになってもいいから、演奏の機会をとおもったんですが……とんでもない弦楽四重奏になるんじゃないかと期待しています(笑)。」
ちなみに第2ヴァイオリンは邦楽の石渡大介、ヴィオラはサクソフォンの大石将紀、チェロはフルートの多久潤一朗と、みんな〈自分の楽器〉じゃない……。チラシには多井くんの「弦楽四重奏の編成にあたり」という文章も掲載されています……珍しい……。これ、五線で書かれていませんでしたかしら?
「いや、五線ですけど……小節線はないです。わりあいソロがね、多い……。だから邦楽の人やサクソフォンの人がやるとか、敢えてそうしたんですよ(笑)。」
“ピアノ協奏曲第4番「JAZZ」”の2台ピアノ版もあります。二人中川―中川俊郎と中川賢一―による演奏で、〈初演〉となります。これ、どちらがソロでどちらがオーケストラ・パートを受け持つのでしょうか。
「ご存知のとおり、このコンチェルトはずっとジャズ系のピアニストにやっていただいている作品で、山下さんが主だったわけですが、そうすると楽譜にしっかり書いたところが嫌われるんですよ(笑)。そういうところになると急にかしこまっちゃったりして。だから、できたら、ジャズ系でなく、クラシックの演奏家で即興ができる人、べつにジャズ系の即興じゃなくてもいいんで、現代音楽系でかまわない、それを1回やりたいとおもったんですけど。いきなりオーケストラとの共演はできないので、2台ピアノに編曲して、というかたちですね。 2人のどちらがどのパートをやるのかは聞いていません。どちらでも大丈夫だとおもうけど。」
すべてが異なった楽器編成で、しかも若い演奏家が多く、オーケストラ作品のコンサートと対照させてみると一層おもしろくおもえます。ソロ・ピアノとオーケストラ/ソロ・ピアノとピアノと、〈協奏曲〉でのあらわれの違いも、楽器編成の違いにとどまらない聴き方ができるでしょうし。
LIVE INFORMATION
東京オペラシティの同時代音楽企画
コンポージアム2016 一柳慧を迎えて。
【一柳慧の音楽】
○5/25(水)19:00開演
会場:東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル
出演:秋山和慶(指揮)東京都交響楽団 一柳慧*(p) 天羽明惠**(S) 松平敬**(Br)
【演奏曲目】
一柳慧:ビトゥイーン・スペース・アンド・タイム(2001)
:ピアノ協奏曲第6番(2016)[世界初演]*
:交響曲《ベルリン連詩》(1988)**
【2016年度 武満徹作曲賞本選演奏会】
○5/29(日)15:00開演
会場:東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル
審査員:一柳慧 川瀬賢太郎(指揮)東京フィルハーモニー交響楽団
ファイナリスト(エントリー順)
ミヒャエル・ゼルテンライク(イスラエル):ARCHETYPE
パク・ミョンフン(韓国):triple sensibilities
中村ありす(日本):Nacres
茂木宏文(日本):不思議な言葉でお話しましょ!
https://www.operacity.jp/concert/compo/2016/
関連企画
【一柳慧 レクチャー】
○5/17(火)18:15開始
会場:国立音楽大学新1号館 オーケストラスタジオ(N-142)
入場無料・一般聴講可〈申込不要〉定員:100名
国立音楽大学作曲専修Facebookページ
www.facebook.com/kcm.composition/
【一柳慧~ミュージック・ホリスティック】
○5/20(金)19:00開演
会場:東京オペラシティ リサイタルホール
出演:吉川裕之(cl)中澤紗央里(vn)佐々木絵理、中川俊郎、中川賢一(p)弦楽四重奏:多井智紀、石渡大介(vn)大石将紀(va)多久潤一朗(vc)
【演奏曲目】
一柳慧:フレンズ―ヴァイオリンのための(1990)
レゾナント・スペース―クラリネットとピアノのための(2007)
シーンズII―ヴァイオリンとピアノのための(1979)
弦楽四重奏曲第3番《インナー・ランドスケープ》(1994)
ピアノ協奏曲第4番《JAZZ》―2台ピアノ版(2016・初演)
www.tokyo-concerts.co.jp