どこから読んでも楽しい……全編語り下ろしとなる初のインタヴュー本

よしながふみ, 山本文子 『仕事でも、仕事じゃなくても 漫画とよしながふみ』 フィルムアート社(2022)

 本書の構成は幼少期の思い出に始まり、愛読マンガ遍歴からデビュー前の経緯、自作品それぞれの制作背景、そして今後の展望……と、時系列に沿ってまとめられており最初から順に読み進めていくのが理想的ではあるが、先ずはめいめいが興味のある章タイトルからページを開いてみるのもいい。

 例えばテレビ・ドラマ化され映画にもなった西島秀俊&内野聖陽コンビの「きのう何食べた?」から〈よしながふみワールド〉に入った新参者なら、同作が青年誌の週刊「モーニング」で2007年から連載が決まったいきさつや、開始当時40代だったシロさんとケンジも今や作中で還暦が見えてくるまで歳を重ねていることなどに、あらためて驚かれるかもしれない。

 江戸の歴史を下敷きに男女の役割が逆転した社会を描いた、連載足かけ16年半(コミック全19巻)の大長編「大奥」の熱心な読者ならば、歴代の女将軍とそれを取り巻く人々の人物設定がどのように作られていったかの舞台裏エピソードに興味津々なはず。

 また出世作の「西洋骨董洋菓子店」はもちろんのこと、様々な女性たちを描いた「愛すべき娘たち」のような単行本化された傑作や、BL誌時代からファンという尊い方々にとっても、嬉しい情報や秘話が満載だ。

 そして当然のことながら、往年の少女漫画好きにはたまらない内容がいっぱい。とりわけ「花とゆめ」「La La」などが〈推し〉の人にとっては、〈白泉社らしいイメージ〉について語るところの〈ファンタジーやSF設定の加味〉や〈男女に限らず人間の性愛や友愛〉〈家族への思いや悩み〉〈疑似家族〉といったキーワードにも胸が高まるに違いない。

 とにかく、よしながふみ先生が子どもの頃から少しもブレてないところが素晴らしい。〈食べること〉に対して強いこだわり持ち、恐らく「ベルサイユのばら」が〈原点〉であり、ドラマや時代劇をこよなく愛し、もともと弁護士志望で法学部に進学しているなど、その全てが作品にまっすぐ繋がっているのだから。