Miles Davis
©Robert Etchevery 

垂涎の未発表スタジオ録音集と、それらを凌駕する白熱のライヴ音源

 ’80年代マイルスの代表3作『Star People』、『Decoy』、『Your Under Arrest』レコーディング・セッションからの未発表テイク2枚分に、’83年カナダでのライヴ録音1枚を加えた3枚組ブートレグシリーズ第7弾が届いた。

MILES DAVIS 『That’s What Happened 1982-1985: The Bootleg Series Vol. 7』 Columbia/Legacy/ソニー(2022)

 マイルスのお気に入りだったオーバーハイムOB-Xaシンセブラスで始まるCD1のテイク1“Santana”は、僅差で本編収録を逃した感のある構成力のある作品。6分過ぎとエンディングで聞き覚えのある“Star People”m9コード平行移動シンセのフレーズが現れる。テオ・マセロの必殺編集技だが、使用箇所模索したんだろうな。テイク2、3“Minor Ninths”はJ.J.ジョンソンとマイルスのエレピという珍しいDUO。ギル・エヴァンスとスティーブ・レイシーの『Paris Blues』を思い起こさせる。

 CD2に移り、毒気は薄いがハートにささやきかけるテイク4“Never Loved Like This”。そしてやはり気になるのが“Time After Time”や“Human Nature”の別テイク。期待どおり、懐かしの音場とあの演奏が繰り広げられるが、本チャンとどう違うかは聞いてのお楽しみとしておこうか。

 とここまで、66分強+62分弱を、豪華ブックレットにおける各メンバーのエッセーと共に堪能し、資料としてこれだけでも十分価値があるんじゃないかと、オマケ的なCD3を再生するわけだが、なんのなんの、やっぱライブよ! メンバー全員〈オレ今あのマイルスのバンドにいて一緒に演ってんだぜ!〉という気迫にあふれている。テイク4“It Gets Better”のエンディング、ジョン・スコのギターソロ終わり際、マイルスのシンセがA♭△7とG7(13)を鳴らして締める絶妙さ。そして何よりうれしいのがマイルスの絶好調な吹きっぷり!

 マイルスは常に色気とブルース・フィーリングを失わずにポップな音楽の抽象画を描こうとしていたんだということを再確認させられた。