『ビッチェズ・ブリュー』50周年記念――トリビュートであり、今のロンドンのジャズ・シーンでもある
ロンドン・ブリューは、12人のイギリスのジャズ・ミュージシャンからなるバンド・プロジェクトだ。マイルス・デイヴィスの『ビッチェズ・ブリュー』50周年を祝うバービカン・センターでのコンサートのために生まれた。パンデミックによりコンサートは中止となったが、レコーディング作品の『ロンドン・ブリュー』がリリースとなった。
プロジェクトを手掛けたのは、プロデューサー兼ギタリストのマーティン・テレフェとエグゼクティブ・プロデューサーのブルース・ラムコフだ。スウェーデン出身のテレフェは90年代からロンドンで活動を始め、多くのメジャー作品を手掛けてきた。彼とザ・インヴィジブルのフロントマンであるデイヴ・オクムがプリプロダクションを担当し、DJ、プロデューサーのベンジー・Bがバンドとの橋渡し役を担ったようだ。そして、ミュージシャンとして集められたのは、現在のロンドンのジャズ・シーンを牽引してきたシャバカ・ハッチングスやヌバイア・ガルシア、トム・スキナー、テオン・クロス、トム・ハーバートらで、ロンドンのスタジオで3日間で12時間以上のセッション音源を収録した。
曲の始まりと終わりを決める以外は全く編集せずにミックスされたという『ロンドン・ブリュー』は、テオ・マセオによる大胆かつ緻密な編集が施された 『ビッチェズ・ブリュー』とは成り立ちが異なる作品と言えるかもしれない。実際、忠実な再現ではなくヴィジョンを共有して録音に臨んだことをテレフェやオクムらも語っている。ただ、ラフなセッション音源には聴こえないのは、イギリス的なプロデューサー主導のやり方と2020年代のアップデートされた演奏スタイルがもたらしたものだと感じた。即興性と共にミュージシャンに内包された編集センスが、この演奏を可能にしたのではないかと思う。だから、ライヴでこそ真価を知ることができるだろう。その機会が訪れることを期待して待ちたいと思う。