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マックス「ツアーに出るとバンド活動って24時間一緒にずっと一緒にいるわけで、そのうち23時間は音楽をやっていないよね。その23時間で僕らは一緒に生活をして、同じ時間を過ごして、その中で想像力を高めたり、特別な瞬間があったり、アイデアが閃いたり。

そして演奏している時がそのクリエイティビティのピークになる。その瞬間っていうのは本当に特別なもので、なかなか言葉では表現できないんだ。だけど〈今この瞬間こそが!〉みたいな体験があって、それが私たちバンドだけじゃなくて、その場にいるオーディエンスやクルー、全ての人が感じられて共感できる大切な瞬間なんだと思う」

三船「今のこの時代にBig Thiefは何が特別かっていうと、世界中の多くのアーティストがラップトップでトラックミュージックを作るようになってるのに対して、Big Thiefはとてもフィジカルで有機的なバンド活動をしていますよね。Big Thiefのそのバンドミュージック、ピュアな音楽をみんなが良いと言っていて、日本公演もソールドアウト! そこには何かみんなを引きつける魅力があるはずなんですよ。マジックがある特別なバンドの一つだなって思うんです。

僕らROTH BART BARONも時代の流れとは関係なくマイペースに活動し続けて、COVID中でもずっと活動してきたことで逆にフックアップしてもらったみたいなところもあって、日本で活動している自分も何かちょっとそこに個人的ながらシンパシーを感じるところもあったりします。

その特別な現象が起きていることについてどう思いますか?」

バック「プレイしてる時や練習してる時、私たちにはコンパスみたいなものがあると思う。それはBig Thiefの私たちらしい何かで、それがカッコ良いかカッコ良くないかなんだ。それは私たち4人が一緒に演奏している時にこそ感じられることで、もちろんその後にオーバーダビングもやるんだけど、やっぱり本当のマジックっていうのは二度と再現できないような瞬間にこそあって。完璧でなくても、失敗したりミスとかがあっても、でも演奏を聴いていてお互い4人が4人の音を聴いてるなっていう感覚が自分達でもわかる。多分その音を聴いてる人たちもそれがわかるような、そんな瞬間があるんだよね」

マックス「トゥギャザーネス、一体感、一緒にいるっていう感覚だね。それがやっぱりオーディエンスにも伝わるんだと思うよ。それが僕たちの一番のストロングポイントかな」

三船「いいですね。それは海を越える何かですよね。僕はまだ実際にBig Thiefのショーを見ていないけど、そこがどのバンドともすごく違うところなのかな。それは特に今の時代にすごく強く感じるというか」

エイドリアン「まず私たちがアコースティック楽器でやってるからかなって考えたんですけど、多分そうではなくて。もしラップトップを使って作ってもBig Thiefらしい音楽ができると思うんです。なぜかというと、ラップトップも楽器だし、楽器はツールですよね。で、例えばそのツールで一緒にパンを作る、仲間とご飯を作るみたいなことと同じで。結局、私たちが何を目指してるのか、何をやろうとしているのかっていうことが大事。

私たちは音をみんなに伝えるとか発表するとかそういうことをやろうとしているのではなくて、オーディエンスのみんなとその時に同じものを見届ける感覚なんです。物理的に目に見えるものと見えないものの架け橋になって、一緒にそれを探してるんですね。それが私たちの演奏のミステリーというか。精神世界みたいなところを一緒に探っているっていうのが私がやっていることなんです。

何か奈落の底みたいな全然見えないところをのぞき込んでいる、言葉にできない不思議なものを探している、みんなでこうやってキャンプファイヤーの炎を見ている、そういう体験に近い何か。燃えてる炎をただ見つめている、そういう体験に近いんだと思う」

三船「4人のソウルというか、そういうところで何を見てるかっていうことが面白くて、重要ですよね。すごくわかります」

バック「一緒に演奏することの重要な価値って、要は〈音の科学〉だと思うんですね。自分たちが手で触って楽器を演奏して、そこに音がある。それはサウンドウェーブとして出てくる科学みたいなことをやっているとも言えて、ある程度は自分たちで演奏してそれをコントロールできるけど、やはりそこは未知の世界というか。

無限の未知な世界の中で、音が波状になって、更にそこにはハーモニーがあって、心に響く何かがあって、それが複雑なジオメトリックのような模様を描く。例えば、虹のプリズムも音に分解してみるとメジャースケールになったりするとか、そういう話があったりもするし。そういうことを4人で一緒にやっている感覚だね。

ちゃんとお互いを信頼して、好奇心を出し合って、一緒にそれを作り上げていくっていうのがすごく大切なことなんだと思うよ。それができるのはとても稀有なバンドなんだと思う」