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過去を踏まえて現代に向き合う

 ただし、先行曲として最初にリリースされたエラ・メイとの“Keeps On Fallin’”はDマイルとの共同制作だった。かつてフェイスがテヴィン・キャンベルに提供した“Can We Talk”(93年)の換骨奪胎となる美麗なナンバー。Dマイルは以前、フェイスが客演したラッキー・デイの“Shoulda”(2020年)でトニ・ブラクストン“Love Shoulda Brought You Home”(92年)を引用していたが、“Keeps On Fallin’”もそれと似た手法で作られている。続くシングル“Seamless”はフェイスとラスカルズの制作でケラーニが歌うトラップR&B。そのケラーニとかつてポップライフというバンドで活動していたサー・ディラン(ドウェイン・ウィギンスの息子)らが制作したのが、第3弾シングルとなったクイーン・ナイジャとのミッド・スロウ“Game Over”である。これらの先行シングルを含め、楽曲をシンガーそれぞれのカラーに寄せて作っているのもフェイスらしい気配りだろう。

 それでいながら、どの曲にもフェイスらしいメロディーが織り込まれ、新しさの中に懐かしさを感じさせる。ティアナ・メジャー9が丁寧に歌い上げる“Say Less”もそんな曲で、これはトニ・ブラクストンが歌っても似合いそうなバラード。また、自身のクラシックを引用した曲もあり、ティンクの“Whatever”では“Whip Appeal”をサンプリングし、トラップ・ビートの上でフェイスらしいメロディーが展開される。“Hrs & Hrs”が2022年のR&Bを代表する一曲となったマニー・ロングとの“The Recipe”では“Soon As I Get Home”を引用。こちらも原曲の旨みを活かしつつマニーの持ち味を引き出したトラップ調のミッド・チューンだ。両曲ともサンプリング・ソースは89年作『Tender Lover』の収録曲。思えば同作の再来を謳ったのが2015年の『Return Of The Tender Lover』だったわけだが、回顧気分に浸った前作に続き、今作ではそのムードを交えつつ現代のシーンに向き合うあたりがフェイスの若々しさの所以だろう。