バンドの新たな魅力
2022年には他にもバズ・ラーマン監督の映画「エルヴィス」のサントラでエルヴィス・プレスリーの“If I Can Dream”をカヴァーしてバラード調に挑戦。一方では“Mammamia” “Supermodel”“The Loneliest”といったニュー・アルバムからの先行ナンバーを次々と公表。新たな魅力をチョイ出ししながら新作への期待を募らせた。本誌がお目見えする頃には、最優秀新人部門でノミネートを受けているグラミー賞(2月上旬に授賞式が開催される)の話題でも持ちきりになっているはず……という怒涛の勢いで転がり続ける彼らだけに、いったいいつの間にこの『Rush!』のレコーディングを進めていたのか、まったくもって驚かされる。が、よくよく考えてみると前作『Teatro d’ira – Vol. I』(2021年)からはすでに2年近くも経っているわけで、サード・アルバムのリリースにはピッタリのタイミングと言えるかもしれない。
『Rush!』からのリード・シングルとして1月中旬に発表された新曲“Gossip”には、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのギタリスト、トム・モレロがゲスト参加。いかにもトムらしい、電気ドリルのようなギター・プレイが差し挟まれ、マネスキンの持つエキセントリックさがいっそうアップ。これはアメリカン・ドリームについて皮肉たっぷりに歌われた曲で、アメリカに対してというよりも、ハリウッドに象徴される〈表層的で拝金主義的な夢〉を追い求める現代社会に疑問を投げ掛けている。というのは、“Supermodel”にも通じるテーマ。「いまや世界中の人々が追い求めるのがアメリカン・ドリームだから」とダミアーノは説いている。
「僕たちが生きている現代社会は、常に100%全力投球することを求められている。ルックスが良くて、健康的で、ステキな体にステキな服を着て、最高にクールな人間関係を持つのを良しとする。それって凄く毒されている。そういう考え方を皮肉っているんだ」とも。「間違ったり、自信がなかったり、悩み事を抱えてクヨクヨしたり、そういうのが人間らしさじゃないか」と語り、地に足の付いたところを窺わせる。
アルバム全体の歌詞の中には、当然ながらセックス、ドラッグ、ロックンロールをテーマにしたものもあれば、ポルノ・アプリやマスターベーション、同性愛といったトピックも飛び出し、ジョン・レノンの命を奪った殺人犯の名を冠した“Mark Chapman”というナンバーまで収録。有名になるために犯したとされる殺人だけに、物議を醸すことは必至と言えそうだ。
かと思えば戦時下のウクライナに捧げた“Gasoline”のような真摯なテーマも歌われる。アルバム制作中の彼らはレディオヘッドをよく聴いていたそうで、アルバム本編のラストを締め括る“The Loneliest”は、特にその影響が大きいという(同曲を耳にすればニヤリとなるはずだ)。4分超えのこのスロウ・チューンはマネスキンにとっての新境地とも言えるが、彼らの身上がノリの良さや瞬発力であることに変わりはなく、アルバム全体からはハチ切れんばかりのエネルギーが漲っている。