Page 2 / 6 1ページ目から読む
THE BOYS

テディ・ライリー以降の音

出嶌「特に3月のラインナップはニュー・ジャック・スウィング(NJS)系統の作品がメインで選ばれています」

「アフター7とアリソン・ウィリアムズに関しては〈Throwback Soul〉シリーズの前回に入っててもおかしくないもので、ブラック・コンテンポラリー~80年代ソウルの流れを汲む作品ですが、基本はNJS時代、テディ・ライリー以降という作品ですね。このあたりって当時から聴いてました?」

出嶌「当時は中高生だったので後追いも多いんですけど、シャニースとかもいたバズビー時代のモータウンには妙に思い入れがありますね。ちなみに唯一リアルタイムで聴いてたのがアリソンで、久保田利伸さん選曲のコンピに“Just Call My Name”が入って、翌年の紅白歌合戦にも出たんで、彼女の『Raw』を山奥で聴いてたのは自分的にデカいです(笑)」

「『Raw』はいいアルバムですよ。ハーレムの路地裏感みたいなものを新しい世代の音として空気ごとパッケージしたようなアルバムで、これ聴くと本当ちょっと鳥肌が立つんですよね。アリソンはハイ・ファッションとか経歴もある人だし、やっぱりR&Bが昔から変わらず持ち続けてるチャーチの要素がすごく出てて。個人的にはNJSブームが終わりかけの頃に初めてNYに行ったんですよ。もうメアリーJ・ブライジもデビューしていたんですけど、ハーレムのような黒人街でよく流れていたのはアリソンとかフレディ・ジャクソンみたいにもっとオーセンティックなもので。それを体験した時に、ハーレムの持つ雰囲気っていうのは、まさに『Raw』の名が体を表してるなって思いましたね」

出嶌「時代を跨ぐとまた違う路上感が出てくるんですけど、初期デフ・ジャム産のR&Bからは洒落た都会としてのNY感がイメージできます。一方にはバズビー期のモータウンがあり、メアリーを輩出したアップタウンもあり。やっぱ当時はレーベルがあってわかりやすかったですね」

「アップタウンはまさにストリート版モータウンみたいな感じでした。この頃はもうバリバリR&Bやヒップホップを聴いてたんで、ジェフ・レッド『Strictly Business』のサントラもリアルタイムで買ってたし、もう意識して聴いてましたね」

出嶌「今回もそのジェフ・レッドやガールズクリストファー・ウィリアムズがラインナップされています。で、今回のラインナップを見てまず思い浮かぶのは、ここにいないガイの名前ですよね、やっぱり」

「特に3月のラインナップは本当にガイ周辺ですね。今回の並びを見ると、ガイで一世を風靡したテディ・ライリーと、その後見人だったジーン・グリフィンがモータウンとアップタウンを跨いでいかに力を持っていたかがよくわかる。そこはバズビーのセンスとか人脈もあったのかもしれない」

出嶌ガイの初作でミックスに携わっていたティミー・レジスフォードがモータウンの裏方をやっていたのも大きいですね」

「まさにそうですね。ティミーがいたことによって、やっぱりダンス・ミュージックとしての楽曲が作りやすかったっていうのはデカいと思います」

出嶌「ヒップホップとのリンクやダンス・ブームもあってNJSは一気に広がったと思うんですが、ブルーノ・マーズの“Finesse”みたいに近年もビートのフォーミュラとしてはたまに話題になりますよね。そうしたリヴァイヴァルやオマージュはどう見ていますか?」

「本気でリヴァイヴァルさせようというよりは、シルク・ソニックが70年代ソウルをベタに再現したのと似ていて、ネタっぽい印象があります。ただ、ビヨンセが新作でハウスやそのルーツに照射していたのと同じ感覚で、黒人が生み出したダンス・ミュージックに光を当てて、新しい世代が受け継いでいくのは美しい流れですよね。テディは先日〈ソングライターの殿堂入り〉を果たしたばかりだし、今回のリイシューはタイミング的にバッチリじゃないでしょうか」

出嶌「そうですね」

「あと、ちょうどウォールズ・グループの新作にテディをフィーチャーしたNJSの“He’ll Make A Way”が収録されていて、モロにあの時代の音でした。途切れずあったわけじゃないけど、わりと最近また出てきている印象かもしれない」

出嶌「ベーシック・ブラックの新作も出たばかりです」

「そう、そのベーシック・ブラックのウォルター“ムーチョ”スコットだったり、ジェンツっていうトゥデイの前身にいたバーナード・ベルだったり、アトランタ・ラップ・バンドことARBのティミー・アーサーだったり、テディやジーンの周辺にいたNJS系のクリエイターたちが時代の音を作っていた感じですね。バーナードはマイケル・ジャクソン『Dangerous』(91年)に関わった絶好調の時代ってことになるのかな」

出嶌「今回のリイシューは昨年亡くなったバーナード・ベルの関わった作品が多いので、そういう裏テーマでも聴けたりしますね。で、90年にテディと喧嘩別れをしてからのジーンは失速しますけど、ARBのアルバムに“New Jac City”という曲をやってたり」

「その喧嘩別れの跡が見えるのがトゥデイのアルバムですね。テディが手掛けた初作に対し、2作目『The New Formula』はジーン主導になってバーナードやザンがやっていて。あと、その『The New Formula』には“Why You Get Funky On Me”のリミックスしか入ってなかったけど、今回のリイシューではサントラ『House Party』に入ってたオリジナルもボートラ収録されていて、これは親切ですよね」