リサーフィスる前に、いまひとたびのファースト・タイム

 〈クワイエット・ストーム〉というラジオ局のフォーマットにピッタリとハマったグループ。サーフィスといえば、そんなイメージが強い。サンプリング・ソースとして知られる“Happy”や“Closer Than Friends”など、ローランドのTR-808を使った打ち込みによるメロウ・チューン~スロウ・ジャムを80年代から90年代前半にかけてヒット・チャートに送り込んだR&Bトリオ。そういえば、トリオでの最終作『Love Zone』(98年/日本発売のみ)を締め括る曲も“Quiet Storm”だったではないか。86年にファースト・アルバムを発表した彼らは、バイ・オール・ミーンズなどと同様にそのシーンを牽引したが、濃厚な夜の匂いだけでなく、海辺の光景を想起させる爽やかなムードでリスナーを楽園に連れ込んだ。

 そのサーフィスがリサーフィスという名で再スタートを切った。といっても、オリジナル・メンバーはフルートで楽曲に爽やかさを加えたデヴィッド“ピック”コンリーのみで、新たに元ブラック・フレイムス(80年代後半にデフ・ジャムから登場したR&Bトリオ)のジョン・フィーヴァを加えた2人組での再出発。そこには、かつてのリード・ヴォーカリストだったバーナード・ジャクソンもいなければ、2005年に他界したデヴィッド・タウンゼントももちろんいない。しかし、アルバム『Where Have You Been』は、マーヴィン・ゲイ“Sexual Healing”的な打ち込みのメロウ・グルーヴが芳しい冒頭曲“Baby Makin' Music”からしてサーフィス以外の何物でもなく、どことなくラファエル・サディークに通じるジョンの柔らかで甘いヴォーカルもバーナードを彷彿とさせ、瞬時にして彼らの世界に引き込んでみせる。

RESURFACE Where Have You Be Flo Music/BBQ(2015)

 思えばサーフィスは再編成の繰り返しだった。結成については諸説あるが、もともとは、70年代後半にマンドリルでサックスをプレイしていたコンリーと、(マーヴィン・ゲイ『Let's Get It On』などへの関与で知られる)父親エド・タウンゼントとのグループ(タウンゼント・タウンゼント・タウンゼント&ロジャーズ)やアイズレー・ブラザーズの舎弟的なサンライズに参加していたタウンゼントが中心となり、女性シンガーのカレン・コープランドをフロントに立てたのが最初のサーフィスだった。この〈オリジナル・サーフィス〉は、カシーフ的なNYサウンドを纏った“Falling In Love”や“When Your X Wants You Back”といったダンサブルなシングルをサルソウルから発表。その後、カレンが抜け、バーナードと合流、LAに向かってコロムビアと契約した3人組が、多くのリスナーが知ることになるサーフィスとなるのだ。

 彼らの曲は冒頭で触れたもの以外でも、“Shower Me With Your Love”や“The First Time”などの甘いスロウ・バラードが人気を集め、これらはポップ・チャートでTOP5入りするほど幅広い層から支持を獲得。ゴスペルのルーツを剥き出しにしたブラックネス追求型のソウルとは違う、普遍的かつ洗練されたポップセンスこそが彼らの強みだった。

 コロムビアとの契約前後からシスター・スレッジニュー・エディションリビー・ジャクソングウェン・ガスリーアイザック・ヘイズなどに楽曲提供をしていたサーフィスだけに、一連のヒットを受けてプロデュース仕事が舞い込んだのも当然の結果だろう。地元ニュージャージーを拠点にしていた彼らは、ジャーメイン・ジャクソンメルバ・ムーアジョルジ・ペタスマック・バンドアレサ・フランクリンらの作品に関与。それらはコンリーが中心となり、彼(ら)は90年代中期以降も、イマチュア(95年作『We Got It』収録の“Pay You Back”は“Happy”をチラつかせた名曲)やジョータイリースらの作品に裏方として関わっている。それだけに今回コンリーを中心にリサーフィスしたのも頷けるというもの。新作のジャケットで愛器のフルートを手にしているコンリーは、新たに甦ったサーフィスにも涼やかな風を運び込む。彼らが戻ってきたのだ。

 

※サーフィスを特集した連載〈IN THE SHADOW OF SOUL〉第87回の記事一覧はこちら