現代に繋がるヒップホップ・ソウル
林「でもこうやって俯瞰すると、やっぱりプロデューサーという存在が幅を利かせていた時代なんだなと思いますね。プロデューサー・ミュージックだったんだなって」
出嶌「今回のリイシューが比較的ダンサブルな方面に着目したものであるように、時代的にも必然的にサウンド志向というか、ダンス・ミュージック/クラブ・ミュージックとしての機能性が求められていた時代というのはあるかもしれませんね。近年は演者によりフォーカスした聴かれ方が主流になっている一方で、ヴォーカルの生々しさみたいなものはやっぱり違うのかなと思います。たぶん現代のほうが実力のあるアーティストは多いと思んですけど。やっぱりこの時代の歌はいいなと思いました」
林「アーロン・ホールなんてもう圧倒的ですからね。ただ、ケラーニのライヴに行った時にも思ったんですけど、楽曲は抑揚をあまりつけない今風でもライヴではやっぱりガッツリ歌えるなって、特にメジャーな人ほどそう感じます。メインストリームでやれてるような人はだいたい歌えるし、昔と比べてレヴェルも高いと思うので、ネオ・ソウル系とされるシンガーもそうですけど、やっぱりそれだけの歌力はあるんだなとは思いますけどね。作品に引っ張られるとボソボソ歌ってるイメージが強くなるかもしれないけど(笑)」
出嶌「聴き方や聴かれ方も違うし、音源の機能も違うのかもしれないですね」
林「ゴスペル、チャーチ直系のシンガーがそのルーツを丸出しにして成立した時代だったというか、それをプロデューサーがちゃんとコンテンポラリーな形で引き出せていた、その時代ならではのセンスがあったんでしょうね。映画『天使にラブソングを2』で注目を浴びたタニア・ブラウントもまさにそれを象徴するような人ですね。他にもジョヤなんかは当時メアリーの二番煎じっぽいイメージだけで捉えられていた感じだけど、いま聴くと最高でし。やっぱりエモーションというか情熱というか、そういうもので引っ張っていく、 心に響く歌が今回のいろんな作品で楽しめると思います」
出嶌「ラインナップの最後にモンテル・ジョーダンのデビュー作がくるのも象徴的なんですけど、95~96年ぐらいになるとヒップホップと並列の作り方が当たり前になって、もうわざわざ〈ヒップホップ・ソウル〉と形容されなくなっていきますよね。00年代にアシャンティが出てきた時やデビュー時のアリアナ・グランデとかもそうでしたけど、以降の周期的な90~00年代R&B回帰は、二重三重の意味でそのままヒップホップ・ソウル時代のリヴァイヴァルとも言えるし、逆に言うと現代と地続きな音は、ちゃんと今回のラインナップからも感じられるということですね。」
林「90年代以降のR&Bはヒップホップと結びつきながら進化、発展し続けているので、広義では大半がそれぞれの時代の〈ヒップホップ・ソウル〉とも言えるわけですよね。ネオ・ソウルだって、ヒップホップ・ソウルの生音表現的なニュアンスもありますし。狭義では、メアリー直系のキーシャ・コールやK・ミシェル、最近だとメアリーのツアーに参加したクイーン・ナイジャやエラ・メイあたりに受け継がれていますけど、何よりメアリー本人が『Good Morning Gorgeous』で現代におけるヒップホップ・ソウルをやっていて。ラフな言い方ですけど、今回リイシューされたような作品と現代のR&Bは繋がっているんですよね。なので、音としては懐かしいかもしれないけど、旧世代が懐古するためだけの音楽ではないことを改めて強調しておきたいです」
出嶌「はい。今回の〈Throwback Soul〉のテーマが〈ネオ・ソウル前夜編〉となっているように、以降のネオ・ソウル方向にももちろん繋がっていくわけで」
林「『Brown Sugar』前という意味ですよね。トニーズやミント・コンディションはまさに前夜だし、人脈的にはBBOTIもそうだし。あと、3ボーイズ・フロム・ニューアークのアイク・リー3世はエリカ・バドゥのデビュー作にも関わっていたので、その意味でネオ・ソウル前夜と言えなくもない……これは強引ですけど(笑)」
出嶌「夜明けが来るのかどうか、シリーズの続きにも期待したいです!」
この時期の定盤。
左から、ボーイズIIメンの94年作『II』(Motown)、TLCの94年作『CrazySexyCool』(LaFace/Arista)、ジョデシィの93年作『Diary Of A Mad Band』(Uptown/MCA)、マライア・キャリーの93年作『Music Box』(Columbia)、ジャネットの93年作『Janet.』(Virgin)、ブラックストリートの94年作『Blackstreet』(Interscope)
その後のヒップホップ・ソウル。
左から、アシャンティの2002年作『Ashanti』(Murder Inc./Def Jam)、エラ・メイの2018年作『Ella Mai』(10 Summers/ Interscope)、メアリーJ・ブライジの2022年作『Good Morning Gorgeous』(Mary Jane/300)