各曲に溢れる彼らしさ
まずはオープニングを飾る“Blackbox Life Recorder 21f”だ。本作のリリース発表時に公開された曲で、どこか郷愁的な響きを持ったシンセ・サウンドとアグレッシヴなジャングル・ビートが際立っている。そのビートは96年のアルバム『Richard D. James Album』的なドリルンベースの香りも漂わせるが、筆者からするとリキッドの“Sweet Harmony”といった90年代初頭のオールドスクール・レイヴを想起させる。そういう意味ではノスタルジックなサウンドと形容できるかもしれない。
続く“zin2 test5”は、TB-303風のアシッディーなベース・ラインがうねるテクノ・トラックだ。ドレクシアあたりのダークなデトロイト・エレクトロが脳裏に浮かぶ静謐なサウンドスケープは彼のトレードマークで、長年のファンなら思わずニンマリするだろう。注意深くビートに耳を傾けると、エレクトロからドラムンベースに通じる拍に少しずつ変化していくのがわかると思う。そういった細かい芸を楽しめるのも魅力だ。
3曲目の“In A Room7 F760”は、エイフェックス・ツインのパブリック・イメージにもっとも近い曲と言っていい。ビートはひとつひとつの音が細かく刻まれ、グルーヴは性急。2001年のアルバム『Drukqs』に収められていてもおかしくない不穏なサイケデリアを漂わせ、矢継ぎ早に変わる曲調もおもしろい。ヘヴィーなキックを筆頭に随所でクラブ・カルチャーの香りが匂う一方で、ノリが一定ではないグルーヴは身体を揺らしづらい。そういったひねくれた曲を作ることも〈らしさ〉のひとつだ。
4曲目の“Blackbox Life Recorder 22 [Parallax Mix]”は、1曲目の別ヴァージョン的な曲だ。音数が少なめのジャングル・ビートを刻みながら、ミステリアスなシンセ・サウンドを鳴り響かせている。反復の気持ち良さを忠実に示すところはオーソドックスなダンス・ミュージックと評せるだろう。