3. Nick Drake『Five Leaves Left』
――次はイギリスの伝説的なシンガーソングライター、ニック・ドレイクの『Five Leaves Left』(1969年)です。
「ニック・ドレイクのアルバムで一番好きなのは『Pink Moon』(1972年)なんだけど、今日は見つからなかったので『Five Leaves Left』を選んだ。これも大好きなアルバムだからね。
以前、ポーランドのワルシャワで3週間のショーの仕事が入ったんだけど、インフルエンザにかかって具合が悪くなってホテルで寝ていたんだ。その時に偶然、『Pink Moon』を聴いて感動した。それで、ライブを観てみたい!と思ってネットで調べて初めて彼が70年代に亡くなっていたことを知った(笑)。それくらい、彼の歌は古さを感じさせないんだ」
――ニック・ドレイクの歌と同じように、あなたの歌もパーソナルな雰囲気を持っています。そういう感覚は意識されていますか?
「そう言ってもらえると嬉しいよ。君が言っていることはすごくよくわかる。ニック・ドレイクの曲を聴いていると、彼が考えていることが自分の頭のなかに入ってくるような気がする。それくらい彼の歌はパーソナルな雰囲気を持っているんだ。
僕自身もそういう感覚はすごく大切にしていて、例えば歌う時にマイクにものすごく口を近づけて歌う。というのも、声だけではなく息遣いや僕の感情をすべて聴く人に届けたいと思っているからなんだ。自分が考えていることや感じていることのすべてが、聴き手の頭のなかに入っていくような親密さをとても大事にしている」
4. Joni Mitchell『Hejira』
――シンガーソングライターの作品が続きますが、ジョニ・ミッチェル『Hejira』(1976年)。
「ジョニ・ミッチェルを語る時、多くの人が彼女の声の素晴らしさを最初に語ると思うけど、僕が一番影響を受けているのは歌詞なんだ。彼女は詩人としてもっとも優れた人のひとりだと思う。なかでも『Blue』(1971年)に収録されている“A Case Of You”や“River”の歌詞は秀逸だよ」
――ジョニ・ミッチェルの歌詞のどんなところに惹かれますか?
「彼女はすごく壮大なことを書いているけど、壮大なことを大げさな表現にせずに書く天才だと思う。彼女はありふれた日々の情景を特別なものに感じさせてくれるんだ。詩的で、正直で、純粋で、時々残酷で、先鋭的でもある。彼女が書く歌詞は、いろんな要素を持っているんだ。“Both Sides, Now”(1969年作『Clouds』収録曲)の歌詞はとても美しくて、こんなふうに歌詞を書ける人は他にいないと思うね。
ジェンダーの話になるのでちょっと気をつけて言わなければいけないけれど、ビリー・ジョエルにしろ、ボブ・ディランにしろ、男性が書く歌詞にはエゴが入っている気がするんだ。まるで孔雀が羽を広げるみたいに、自分を大きく見せようとしているところがあるように思える。でも、ジョニ・ミッチェルの場合、そういうエゴを一切感じさせない。すごくクリアでピュアな歌詞を書くんだ」