クリエイティブチームlondogですべてを作り上げるDIY精神
a子というアーティストの独自性を語る時に避けて通れないのが、クリエイティブチーム〈londog〉を率いて制作をおこなっていることだ。バンドメンバーからミュージックビデオのカメラマン、スタイリスト、ヘアメイクアーティストまでを含むlondogというチームは、音楽やファッション、映像、色彩でa子の世界を独特のサウンドとビジュアルに出力する仲間たちである。特にミュージックビデオの撮影や制作への徹底的なこだわり、映画からの影響などは、a子やlondogへのインタビューで明かされているとおり。
外注に任せて丸投げするのではなく、信頼できる近しい仲間たちとともにクリエイティブコントロールの手綱をしっかりと握っておくというスタンス。そこに、a子のインディペンデント精神、なんでも自分たちで作り上げたいという自主性が表れている。ちなみに、スタジオを含む録音環境については「サウンド&レコーディング・マガジン」の2022年のインタビューに詳しいので、a子のDIYスタイルについて詳しく知りたい方には一読をおすすめする。
ドラマの世界とリンクする“あたしの全部を愛せない”と進化した新曲“trank”
さて、a子は、『ANTI BLUE』の発表以降も、今年にかけてハイペースに新曲をリリースし続けている。これも、a子の尽きせぬ創作意欲と強力なチームワークが為せる技だろう。
6月21日には、前述の“あたしの全部を愛せない”を発表した。同曲が毎回幕開けを飾ってきたドラマ「初恋、ざらり」は、軽度知的障がいを持つ主人公・上戸有紗(小野花梨)と岡村龍二(風間俊介)との恋愛物語である。世間的に求められる〈普通〉の基準が当たり前のものではないことに苦しむ有紗、そして逆に〈普通〉の基準に適応してきた岡村との恋愛模様のリアルさには、多くの視聴者から共感の声が寄せられている。
同曲のタイアップが決まった際、a子は「原作を読ませていただいたのですが、OPテーマに決まった“あたしの全部を愛せない”と主人公の有紗ちゃんの心情がリンクした世界観の楽曲になっているかと思います」とコメントしている。
歌詞には恋愛の要素ももちろん盛り込まれているが、印象的なのは〈あたしの空虚も愛せない〉〈あたしの全部を愛せない〉と歌うサビのラインだ。〈普通〉の基準に適合できないことへの有紗の劣等感が表れている一方、〈言葉や眼差しで潰れそう〉は、世間から向けられる暴力性の表れだろう。それらが、〈あたしを愛せない〉ではなく〈あたしの全部を愛せない〉と表現されているところにa子のリリシズムがある。そして〈ちゃんとすることもやめたわ〉と振り切れた結論に辿り着くところに、ドラマの行く末も表れていそうだ。
9月13日には、ニューシングル“trank”がリリースされたばかり。今回も凝りに凝ったMV(強盗に扮するa子とゾンビが登場)は見どころ十分だが、近作のa子サウンドを発展させたバウンシーなグルーヴと自暴自棄な愛を囁き歌う詞世界は、やはり独特。
音の面にも注目したい。宇多田ヒカル、米津玄師、Official髭男dism、藤井 風、KIRINJIといったJ-POPのトップランナーたちから信頼される一流エンジニア、小森雅仁によるミキシングが肝になっているからだ。サウンドの洗練度がぐっと上がっている。
強い共感を呼ぶリスナーとの一対一の関係
〈次世代のダークポップアイコン〉と評されることもあるa子。2023年1月に放送されたテレビ朝日「関ジャム 完全燃SHOW」の企画〈プロが選ぶ年間マイベスト10曲〉で佐藤千亜紀が“太陽”を選出したことを筆頭に、Vaundyや君島大空、SCANDALといった先輩同業者たちからの信頼も厚い。
ちなみに、佐藤千亜紀とは1月にEP『TIME LEAP』収録曲“melt into YOU”で共演したことも話題になった。
その魅力の核心は、どこにあるのだろうか? それは、a子が、人々が対外的には押し隠している弱さや痛み、闇に覆われた部分をも曝け出し、音楽に昇華させていることなのではないだろうか。ウィスパーボイスによる歌も最大のチャームであり個性の一つだが、その独特の歌唱法は、リスナー一人ひとりに語りかけるような親密さや内省性を体現している。その歌が詞世界やサウンドと一体になった時に、〈彼女は私に向けて歌っているんだ〉という実感を聴き手に強く与えるのだ。a子の音楽を聴くということは、a子とリスナーが一対一の関係を結ぶこと。だからこそ、強い共感を呼び起こしている。
6月に初のワンマンライブ〈FEED MY BODY〉を成功させたa子は、年末に初の東阪ツアー〈a子 Live Tour 2023「l’m crazy now, over you」〉を開催する。生の現場で、大勢のオーディエンスを前にしても、a子は一人ひとりに歌いかけるにちがいない。
RELEASE INFORMATION
リリース日:2023年6月21日(水)
配信リンク:https://lnk.to/aisenaiPR
TRACKLIST
1. あたしの全部を愛せない
リリース日:2023年9月13日(水)
配信リンク:http://lnk.to/trank
TRACKLIST
1. trank
LIVE INFORMATION
a子 Live Tour 2023「l’m crazy now, over you」
2023年12月16日(土)大阪・梅田 Shangri-La
開場/開演:17:30/18:00
2023年12月26日(火)東京・渋谷 CLUB QUATTRO
開場/開演:18:00/19:00
チケット:4,500円(税込/ドリンク代別)
先着先行:2023年9月13日(水)12:00〜2023年10月15日(日)23:59
受付URL:https://eplus.jp/ako2023/
主催:YUMEBANCHI(大阪)/CREATIVEMAN PRODUCTIONS(東京)
■お問い合わせ
YUMEBANCHI(大阪):06-6341-3525(平日12:00〜17:00)
クリエイティブマン:03-3499-6669
PROFILE: a子
シンガーソングライター。2020年に本格的にアーティスト活動を開始。情緒的な楽曲の数々はa子自身がプロデュースしながら制作。ミュージックビデオもa子率いるクリエイティブチーム・londogが制作するなど、活動内容は多岐にわたる。2020年9月にファーストEP『潜在的MISTY』、2021年1月にはセカンドEP『ANTI BLUE』を自主レーベル・londogよりリリース。現在までに、EP 2作、シングル14曲をリリースしている。2023年1月放送のテレビ朝日「関ジャム 完全燃SHOW」の〈プロが選ぶ年間マイベスト10曲〉にて佐藤千亜紀により2022年8月にリリースした“太陽”が選出される。2023年6月にa子名義として初となるワンマンライブ〈FEED MY BODY〉を東京・渋谷WWWで開催、ソールドアウト。a子初の東京・大阪ツアーとなる〈a子 Live Tour 2023「l’m crazy now, over you」〉を、12月16日に大阪・梅田Shangri-La、12月26日に東京・渋谷CLUB QUATTROにて開催する。