©Jill Furmanovsky

屈指のB面集から聴く、オアシスが内包していた多彩な音楽性

 すぐに実現しそうで、なかなか現実とはならないオアシスの再結成。だが、特に2010年代の後半以降、リアムとノエルのギャラガー兄弟双方が音楽家として充実期にあるのを見ていると、ファン目線からでも〈いまは期待しないでいいや〉とも思ってしまう。その一方、そんな彼らの姿を〈オアシス初期に勝るとも劣らない〉なんて言葉で評価してしまうのも事実であって……。もちろん、それは94年のデビューから数年間、オアシスが、みずからのすべてを黄金色に輝かせていたことを示している。

OASIS 『The Masterplan - 25th Anniversary Remastered Edition』 Big Brother(2023)

 そして、絶頂期の証として、2作のオリジナル・アルバム以上に名前を挙げられるのが、このたびリリース25周年を記念してリイシューされる98年のB面集『The Masterplan』だ。このアルバムは、初期3作の時期に発表されたシングルのB面曲から抜粋された14曲を収録したもの。カップリングとは思えない名曲の揃いっぷりに、〈本作こそオアシスのベストなアルバムだ〉と主張するファンも少なからず存在するほどだ。リアムとノエルが交互にヴォーカルをとり〈俺たちはお互いが必要なんだ〉と歌う“Acquiesce”から始まり、〈わかっているのは何もわかっていないということだけ〉とノエルの人生観を映した“The Masterplan”で終わる曲順も含めて完成度の高いアルバムだが、ここでは初出のシングルがリリースされた順に則して、本作を見ていこう。

 意外にも、94年の初作『Definitely Maybe』期は、“Cigarettes & Alcohol”に収録された、ビートルズ“I Am The Walrus”のライヴ・カヴァー、サイケなバラード“Listen Up”、この時代の彼ら特有の疾走感が甘酸っぱい“Fade Away”という3曲のみ。その後に発表されたアルバム未収のシングル“Whatever”(94年)からは“Half The World Away”“It’s Good To Be Free”の2曲が収録されている。ノエルのバカラック趣味が表れたソフト・ロック調の“Half The World Away”は英国内で非常に人気の高い楽曲。とはいえ、初期のアルバムに置かれたら浮いていただろう。こうした曲の器として『The Masterplan』は優れた役割を担っていたことを再認識させられる。

 95年のセカンド・アルバム『(What’s The Story) Morning Glory?』期の楽曲はやはり多い。“Some Might Say”からは上記の“Acquiesce”に加えて“Headshrinker”“Talk Tonightの3曲、“Roll With It”からはフォーク・ロックな趣の“Rockin’ Chair”、“Wonderwall”からは“The Masterplan”とガレージなインストの“The Swamp Song”、“Don’t Look Back In Anger”からは“Underneath The Sky”という計7曲を収録。97年に発表されたサード・アルバム『Be Here Now』期では、“D’You Know What I Mean?”から“Stay Young”、“Stand By Me”から“Going Nowhere”が収められている。

 94年のUSツアー中にノエルが失踪した際のメランコリックな気持ちを綴った“Talk Tonight”、この時期のライヴ冒頭に演奏されていた“The Swamp Song”などが知られているが、サイケデリック・ソウル風味の“Underneath The Sky”、『Be Here Now』期屈指のご機嫌なポップソング“Stay Young”、これ以降のオアシスがめざしたアダルト路線のプロトタイプ(かつ最良)と言える“Going Nowhere”といった楽曲には、当時のオアシスが内包していた音楽性の多様さを見つけることができよう。解散から14年を迎え、特定のアンセムにバンドのイメージが限定されつつあるいまこそ、『The Masterplan』を聴くタイミングとしてはベストなのかもしれない。

 最後に余談をひとつ。94~98年にオアシスが発表したB面曲には、本作の14曲以外でも、まだまだ名曲が多い。ホーン・セクションが楽しい“Round Are Way”、全能感を喚起する“Step Out”、デヴィッド・ボウイをノエル・マナーでカヴァーした“Heroes”など埋もれてしまうにはもったいない楽曲だと思うのだが、このあたりで『The Masterplan 2』をリリースしてくれないものだろうか。

オアシスの初期のアルバム。
左から、94年作『Definitely Maybe』、95年作『(What’s The Story) Morning Glory?』、97年作『Be Here Now』(すべてCreation/Big Brother)

左から、リアム・ギャラガーの2023年のライヴ盤『Knebworth 22』(Warner)、ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズの2023年作『Council Skies』(Sour Mash)