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「けいおん!」の尋常でなく細やかな演出に衝撃を受ける

2011年の秋、女友達から「観てほしいアニメがある」と言われて唐突にUSBを渡されました。そこには彼女が薦めてくれた「放浪息子」をはじめ、「魔法少女まどか☆マギカ」や「けいおん!」、「あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない」など、当時話題の作品が収められていたのです(いま思えばイリーガルなのでしょうけど……)。

たしかに見ごたえのある作品ばかりでどれも感銘を受けたのですが、中でも図抜けて衝撃的だったのが「けいおん!」でした。その理由を語りだすと非常に長くなるので別の機会に譲りますが、一つだけ触れておきたいのは、たとえば登場人物の脚の描写だけで感情の機微を表現するような、〈映像レベルの演出〉が尋常でなく細やかだったことです。実写のフィルムとは違ってアニメは〈無駄なものを描かない〉という当然といえば当然の事実に、僕は「けいおん!」を通して初めて気付いたのでした。それからはアニメを観ることが再び楽しくなってきたのです。

 

「たまこまーけっと」への偏愛と亡き片岡知子さんの思い出

じつは今回、取り上げようかずいぶん迷った作品があります。それは「けいおん!」の山田尚子監督と京都アニメーション制作による2013年のオリジナル・アニメ「たまこまーけっと」です。人気作が多い京アニのなかでは比較的地味なポジションに甘んじているように思いますが、私的にはとても愛着のある作品で、モデルとなった出町桝形商店街には京都へ行くたびに必ず足を運んでいるほどです。

「たまこ」の魅力は、元インスタント・シトロンでマニュアル・オブ・エラーズにも所属していた片岡知子による、ちょっとストレンジで暖かみのある劇中音楽に負うところも大きいでしょう。じつは以前プライベートの片岡さんにお会いする機会があって、舞い上がった僕は「たまこ」とその音楽の素晴らしさについて熱弁してしまったのですが、片岡さんはそれをすごく喜んでくれて話が盛り上がったことをよく憶えています。その後も仕事で縁のあったご主人(グラフィックデザイナーの岡田崇さん)を通じて近況を伺っていたので、勝手ながらとても近しい思いを抱いていました。それゆえ片岡さんが闘病のすえ2020年に51歳の若さで永眠されたときには、言葉を失ってしまったのですが……。

「たまこ」10周年を迎えた今年の10月、主題歌やサントラなどの計4タイトルが初のアナログリイシューされたことは存外に嬉しいことでもあり、連載のタイミング的にも申し分ありませんでした。ただどうしても個人的な感傷が強く先立ってしまって整理のつかない文章になりそうなため、取り上げるのを控えた次第です。