鈴木優人との初DUOで、ロマン派の森に分け入る
2019年に〈Opus One〉レーベルからヤナーチェクなどの録音でデビューを飾った話題のヴァイオリニスト・石上真由子が、DENONレーベルからの第1弾録音をリリースする。ブラームスの“ヴァイオリン・ソナタ第1番”をはじめ、シューマン夫妻の作品を集めた1枚だ。
「ブラームスは私にとって敷居の高い存在でした。しかし、昨年の暮れにようやくブラームスのソナタ全曲を演奏会で取り上げて、彼の世界に少しだけ足を踏み入れることが出来たという感じです」と石上は話す。ヤナーチェクをはじめ近代から現代の作品に強いイメージを持たれることの多い彼女。しかし、こんなことを指摘されることもあった。
「君の音楽性が活きるのはロマン派とユダヤ系の音楽の作品だよ、と大山平一郎さんに言われたことがあり、ほんとかな?と自分では思っていたのですが、今回ブラームスに取り組むなかで、その言葉の意味も次第に分かってきたかもしれません」
共演のピアニストは鈴木優人。
「最初は『題名のない音楽会』でお話だけして、NHKで放送された『今届けたい音楽』の時に初めてピアノを弾いて頂きました。その時に、あ、この人のピアノならばロマン派の作品も共演できそうという予感があり、今回の録音での共演をお願いしました」
収録されたのはブラームスのソナタの他に、ロベルト・シューマンの“3つのロマンス Op.94”、クララの“3つのロマンス Op.22”、それにロベルト編曲のJ・S・バッハ“シャコンヌ”のヴァイオリンとピアノ版など。
「一種の〈謎解き〉のようなプログラムが好きです。ここでもブラームスを中心に、ロベルト&クララ夫妻と、当時の名手ヨアヒムの影も見えてくるような選曲です。それぞれの気持ちを想像しながら聴いて頂くと、より興味深い世界が広がって来ると思います」
最初におかれたシューマン(ハイフェッツ編)の“予言の鳥”もなにか不思議な世界への入り口のような役割を果たしている。
「ブラームスがヴァイオリン・ソナタ3曲を書いた時期は、彼にとって激動の時期だったと思うのですが、私自身もかなり人生の激動の時期を過ごして、そのブラームスの心の中にあった様々な想いに近づけた気がしています」
鈴木のピアノも、その石上の気持ちに寄り添うように、時に激して、時に沈んで、作品の陰影を表現している。作品の魅力を改めて教えてくれる1枚となった。
LIVE INFORMATION
石上真由子 ヴァイオリンリサイタル
2022年7月24日(日)京都府立府民ホール アルティ
開場/開演:13:30/14:00
曲目:ベートーヴェン/ヴァイオリンソナタ 第8番 ト長調 作品30-376 他
国際芸術祭「あいち2022」スティーヴ・ライヒ スペシャル・コンサート
2022年7月30日(土)愛知 名古屋市芸術創造センター
開演:19:00