音楽は自分より長生きする

〈Quaranta〉はイタリア語で〈40〉という意味。つまり、40代に突入したダニーが『XXX』(=30)の続編的なニュアンスで作ったアルバムということだ。過去作に比べれば全体的にダウナーな雰囲気が横溢しているが、それは単純に老若の対比に用いていい物差しとも限らない。
「俺の音楽の多くはオルタナティヴだと思われたり、時には変だと思われることもある。ただ、なかには奇妙であるために奇妙でいる人もいるけど、俺の美学はそうじゃない。ずっと同じことをやっていると退屈してしまうから、今回はもっと自分に挑戦してみた。もう少しラウドで、オーガニックな楽器編成のような、もっとヘヴィーなものにしたかったんだ」。
それを如実に反映したのは名匠アルケミストが手掛けた先行カット“Tantor”で、こちらはまさにアルゼンチンのタントールによる“Oreja Y Vuelta Al Ruedo”をロッキッシュにループした無骨な展開が熱い(日本のTVなどにおけるエロ描写でお馴染みの効果音〈ワ~オ〉まで聴こえてくる!)。盟友ポール・ホワイトや旧知のクウェル・クリス、気鋭のカッサ・オーヴァーオールらの仕事ぶりも硬軟自在な語り口に寄り添うオーガニックな感触で、そうでなくても多方面にリンクする主役の感覚は今回の『Quaranta』をストイックな充実作に引き上げている。曲作りにおいては前作制作時のQ・ティップの教えも大きかったそうだ。
「彼は〈時間はある。いったん世に出してしまったら、もう作り直すことはできない。世に出す前に必要な愛情すべてを注ぎこむんだ〉って教えてくれた。以前の俺はありそうもない方法で成功させようと、とにかく急いで仕上げていて、アイデアを見直そうともしなかったんだ。でもいまは可能な限り完璧なものに仕上げるように心掛けている」。
初期衝動や瞬発力に頼った創作は彼にとって過去のものとなった。もし成熟に意味がないとしたら、そもそも若さに何の価値があるのか。これまで以上に内省に振り切れて自伝的な内容に踏み込んだ『Quaranta』は、もはや若ぶる必要のないコンディションの表れである。
「自分が何のために音楽を作っているのかを理解したんだ。以前は酒やら何やらで、自分がどこかに迷い込んでしまったような感じだった。でも、いまは音楽が自分より長生きすることがわかっている。だから、いまは音楽を作ること=遺産を残すようなものなんだ。例えば、50年前のアルバムで、聴いたこともないし、聴く予定のないものはたくさんある。だから、時の試練に耐えうるものを作り、自分にとっての遺産を残せるようになりたい。いまはただそれだけなんだ」。
ダニー・ブラウンの初期作を一部紹介。
左から、2008年作『Hot Soup』(Libido Sounds/SCM)、2011年作『XXX』、2013年作『Old』(共にFools Gold)
ダニー・ブラウンが参加した近作を一部紹介。
左から、ブロックハンプトンの2021年作『Roadrunner: New Light, New Machine』(RCA)、トニー・アレンの2021年作『There Is No End』(Blue Note)、ブラック・ノイズの2020年作『Oblivion』(Warner)、アルト・Jの2018年作『Reduxer』(RCA)、ダブリーの2018年作『Three /Three』(Ghostly International)