左:下野竜也 ©Naoya Yamaguchi 右:羽田健太郎 ©田中聖太郎

初演から40年――下野竜也が開いた新たな「ヤマト」の世界

 まず個人的な回顧になるが、大学受験をひかえる年にテレビ放送されたのが「宇宙戦艦ヤマト」だった。その時には観ていなかったのだが、後年アニメーション雑誌に関わることになり、プロデューサーにインタヴューする仕事がまわって来たので、テレビシリーズ以下、劇場版などを見直したことがあった。

 最初のテレビシリーズが放送されたのは1974年。巨大戦艦ヤマトを宇宙空間に飛ばすというアイディアは当時の若者たちの心をつかんだ。登場するキャラクターにもそれぞれファンが付いた。〈推し活〉はすでにこの時から始まっていたのだ。「ヤマト」は何度も映画化され、日本にSFアニメーションという大きな流れを作り出したのは皆さんご存知の通り。

 その音楽は宮川泰(1931~2006)が担当していたが、1984年に“交響曲 宇宙戦艦ヤマト”が羽田健太郎(1949~2007)によって書かれ、NHK交響楽団が初演した(指揮は大友直人)。この曲は宮川の書いた「ヤマト」のための様々なテーマをモチーフに使い、天才作・編曲家としても知られた羽田がその手腕を発揮した傑作であり、再演を重ねて来た。

下野竜也, 東京交響楽団 『羽田健太郎:交響曲 宇宙戦艦ヤマト -LIVE 2023-』 コロムビア(2024)

 今回の録音は、日本の作曲家の作品を発掘しては演奏会で取り上げている下野竜也の指揮、オーケストラは東京交響楽団、重要な役割を果たすソリストに三浦文彰(ヴァイオリン)と髙木竜馬(ピアノ)、加えて隠岐彩夏(ヴォカリーズ)が加わった2023年7月のライヴである。大友指揮以外の録音がリリースされるのはこれが初。全4楽章だが、ドッペル・コンチェルト(二重協奏曲)の編成となる第4楽章“明日への希望”はソリスト同士がその実力を思う存分に発揮できる力作であり、羽田の作曲家としての想いが強く込められた楽章。今回の録音でもふたりのソリストの熱いバトル、そして指揮の下野の熱い想いも重なって、新たな「ヤマト」の世界を開いたと感じる。オールドファンだけでなく、いまアニメーションに熱狂している世代にも聴いてもらいたい一作だ。