再注目の吉松作品、交響曲の原点となった管弦楽曲“チカプ”も収録!

 いわゆる〈現代音楽〉とは一線を画し、新しい同時代の音楽を紡いで来た吉松隆。プログレッシヴ・ロックなどの影響を受けてスタートした彼の作曲歴はかなり長いが、その吉松作品を再び見直して演奏会で取り上げようという動きが盛んになっている。その一例がこの録音で、吉松初期の代表作“カムイチカプ交響曲(交響曲第1番)”を中心に行われた〈ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団 名曲全集 第179回 (2022年9月25日)〉のライヴ。指揮は吉松作品の演奏に力を入れる若手・原田慶太楼、演奏は東京交響楽団だ。

原田慶太楼, 東京交響楽団 『吉松隆:カムイチカプ交響曲/チカプ』 コロムビア(2022)

 嬉しいのは交響曲の原点となった管弦楽曲“チカプ(注・アイヌ語で鳥を意味する)”が収録されていること。緻密で、精巧に作られた管弦楽のなかに、澄んだ空気や風、そして鳥の飛ぶ情景を思わせる叙情的な世界が広がっている。1982年(2003年に改訂)の作品で、この演奏を実演で聴いた時も思ったが、時代の動向はまったく気にせず、自分自身の世界を追い求める吉松の世界観が短い作品の中に凝縮された傑作である。吉松作品はまだ聴いた事がないという方は、この“チカプ”と“朱鷺に寄せる哀歌”(このディスクには入っていないが)をまず聴いてみて欲しい。

 メインとなる“カムイチカプ交響曲”(1990年)は全5楽章。それぞれの楽章にサブタイトルが付けられた交響詩的な要素も含む作品だが、シンフォニックな音の展開、静から動への劇的な変化、そして最終楽章で現れる〈虹〉の音画など、オーケストラ技法の様々な要素を詰め込んだ力作である。

 原田慶太楼&東京交響楽団の演奏は、吉松の意図を見事に描き切ったもので、最近の彼らの充実した演奏活動をそのまま感じさせてくれる演奏でもある。複雑に絡み合う弦楽器の見事な線的素描、管楽器の音色とニュアンスの豊かさ。吉松の書いたスコアから浮かび上がる音の世界の美しさを堪能できる録音であり、現在の日本を代表する交響曲作家としての吉松の魅力を伝えてくれた。

 


LIVE INFORMATION
吉松隆の〈英雄〉
2023年3月11日(土)東京・池袋 東京芸術劇場 コンサートホール
開演:14:00
出演:原田慶太楼(指揮)/東京交響楽団

■曲目
吉松隆:鳥は静かに… op.72/吉松隆:鳥たちのシンフォニア “若き鳥たちに” op.107/キース・エマーソン&グレッグ・レイク/吉松隆編曲タルカス/吉松隆:交響曲第3番 op.75
https://www.japanarts.co.jp/concert/p990/