ビヨンセ基準のキャリアプラン
――日常生活において、ビヨンセから何か影響を受けたエピソードはありますか?
「二方向の話をしてもいいですか? まず一つは、〈どうやって生きるか?〉っていう指針にしています。彼女の驕り高ぶらない謙虚さを、常に心の中に留め置いていて。今回実際にお会いしても思いましたけど、彼女はあれだけビッグで長者番付にも載るような人なのに、すごい謙虚なんですよ。私もどこまで出世したとしても、ビヨンセを見習って謙虚で腰を低くして生きようと常々思っています。
それとアメリカのセレブあるあるですけど、彼女って慈善団体の活動とかもされているじゃないですか。ビヨンセのポリシーとして〈全てを取り残さない活動〉みたいなのが多分あると思うんですよね。私はただの一介のサラリーマンですけど、募金とかもなるべくしていますし、もし万が一、大金持ちになったらビヨンセみたいに奨学金の財団を作りたい。そうやって還元する姿勢や、謙虚な姿勢には大変影響を受けていますね」
――なるほど。
「あと、彼女はご姉妹にアーティストのソランジュさんがいたり、お母様もお洋服を作れる人だったりと一般家庭とはちょっと違うと思うんですけど、逆境を跳ねのけて成り上がってきたバックグラウンドの人でもあるので、そこに勇気を貰うことは多いですね。もちろんアメリカのブラックコミュニティの中にいる方なので、日本でマジョリティの日本人として生きている自分とは全然違うことはわかっているんですけど、マインドセットの部分として尊敬できるというのはあります。
もう一つがですね、これは多分ほかのファンの方とは違うことだと思うんですけど、私はこれまでのキャリアプランをビヨンセのライブがあるかないかで判断して組み立ててきたんですよ」
――どういうことですか?!
「私はこの春で社会人10年目なんですけど、4年目の時に転職をしているんです。2018年の年明けくらいから〈転職したいな〉と思って色んな会社を見ていたんですけど、どうしても腹落ちしないものが多くて、自分のマイルストーンにならなさそうだったというか。自分で締切を作れなかったので、何かきっかけを作ろうと思ったんです。
そんな時、2月にビヨンセ(とジェイ・Z)のツアー〈On The Run II Tour〉の日程が公開されて、チケットが販売されるってアナウンスが来たんです。会員用サイトの公開日の夜中にベッドの上で正座して日程を見ました。行けるとしたらお盆に行われるニューヨークのバッファロー公演かなと思って、チケットを取ったんですね。
それで、せっかくアメリカまでお金をかけてビヨンセを見に行くとなったら、身も心も綺麗にして行かないといけない。〈じゃあ、8月中旬には今の会社を退職して次が決まっている状態にしよう〉と思ったんですけど、当時勤めていた会社は3か月前くらいに退職の話をしないと怒られが発生するようなところだったんです。それで逆算して、7~8月くらいに有休消化期間をぶつけようと思ったら、4月くらいには転職先の内定をゲットしとかねばならんと。なので4月中に内定をゲットして会社に報告するのを締切にして、2~4月の間に転職活動をして上手く決まって、シャンシャンっていう大団円を迎えました」
ツアーは記憶を飛ばしていい回と記憶に焼き付ける回と2回行かねば
――すごすぎますね。ビヨンセのパワーって感じです。
「あはは(笑)。去年あった〈Renaissance World Tour〉も、お盆の時期のアトランタ公演に行ったんですよ。今、私が勤めている会社は案件単位で動くような業界なので、自分がビヨンセのツアーに行く日程が半年前くらいにわかっていたら、そこを目がけて携わる案件を調整できるんです。何があってもライブに行くため、全てをビヨンセに合わせてスケジュールを組みました。
それで去年の夏は忙しすぎて死にそうになっていたんですけど、身ぎれいな状態でアトランタに行って、その後は〈Renaissance World Tour〉を観た後の私として帰ってきて、フラットな状態で人生を邁進させていただいております(笑)」

――ビヨンセ基準で生きているんですね。ものすごいお話を聞いた気がします。ライブに行かれてどうでしたか?
「感動ですね。お金をかけて行った甲斐以上のものがありました。ライブは8万人規模のアメフトの会場とかでやっていて、スタンド席になると豆粒どころか、〈あの辺にビヨンセがいる〉って概念だけの状態になるんですよね(笑)。なので、なるべく近いところで肉眼で捉えなければと思ったんですけど、アリーナ席の方に寄って行けば行くほど値段も高い。〈On The Run II Tour〉の時は初めてだったので、肉眼で収められるけど10、20万円する席は取らなかったんです。でも、〈ビヨンセが近くで見えてありがたかった〉ってところで終わりました。
その時が初めて行ったビヨンセのライブだったんですけど、人って興奮しすぎると出来事を忘れるじゃないですか。なので、もう呆然としたまま終わってしまって(笑)。一緒に行ってくれた幼馴染からは〈あんまり泣かんかったな〉と言われたんですけど、ライブがあまりにも現実じゃないように見えてしまったんですよね。テレビ画面を見て〈ワァァーッ!〉って言っているみたいな状態でした。
その反省があって、〈Renaissance World Tour〉はどうせ大興奮してしまうので、記憶を飛ばしてもいい回と、全てを記憶に焼き付ける回とで2回行かなければならないと思ってですね(笑)。音楽の趣味が合う会社の先輩と一緒に、アトランタに2日間行きました。1日目はやっぱり興奮して何も覚えていないんですが、2日目はただただ〈ありがたい、ありがたい〉って泣きながら観ていましたね(笑)。〈本当にありがたいことです。労働の痛みも全て報われて、洗い流されるようです。キラキラですね〉みたいな心境でした。
しかもですね、〈Renaissance World Tour〉から、彼女のご長女のブルー・アイヴィーさんもご登場されたんですよ。ツアーの様子をSNSで先にずっと見ていたんですけど、実際に生で見るとすごい感動的だったんです。〈わ~、こんなに大きくなって。本当に素晴らしい。ちゃんとビヨンセとジェイ・Zの全てのいいところがマージされている〉って、よくわからない近所のおばさんみたいな気持ちで泣きながら見ていました(笑)。



そうやって泣きながら、ありがたがりながら観ていて、現地のファンの方と〈どこから来たの?〉〈日本です〉〈あら、珍しい〉みたいなやりとりもしました。現地のファンの方もアメリカのすごい遠いところや、ほかの国から来ているのがザラなので、〈あなたはどこから?〉って話はよくあるみたいですね。去年のビヨンセの現場では扇子を持って行く人が多かったんですけど、私と先輩は扇子を作る暇がなかったので、日本のオタクらしくうちわをデコったものを持って行きました。これを持って行くと現地でも目立つので、〈まぁ、かわいい〉みたいに話しかけられましたね」