ピュアな情熱と愛情が溢れる、カセットのデモテープが初CD化!

 85年に細野晴臣が主宰するレーベル、ノンスタンダードからデビューした鈴木惣一朗によるワールドスタンダード。アンビエント・ミュージック、ワールド・ミュージック、映画音楽など様々な要素を含んだサウンドは海外でも評価が高いが、デビュー以前に関係者に無料で配布していたデモテープ3作品がCD化されることになった。

WORLD STANDARD 『ASAGAO』 ミディ(2024)

 鈴木は友人の児島路夫と82年にワールドスタンダードを結成。児島の実家で宅録したのが『ASAGAO』(82年)だ。アコースティック・ギターやマンドリンなど弦楽器のシンプルなフレーズを中心にしたミニマルな楽曲に、ラジオの音声、おもちゃの車、段ボールを叩いた音など日用品を楽器のように使った音が散りばめられている。ポスト・パンク的な実験精神とアンビエントな静けさが溶け合ったサウンドがみずみずしい。

WORLD STANDARD 『YOIMONO』 ミディ(2024)

 メンバーが2人加入して4人編成になった 『YOIMONO』(83年)では本格的に録音機材を導入。音響的な作品だった前作に比べてメロディに重点がおかれるようになり、歌や朗読など声の使い方を試行錯誤しているのも特徴だ。鈴木の音楽的なルーツであるポップスやロックの要素が活かされて曲のクオリティは上がったが、ネオアコに通じる初々しさは失われてはいない。

WORLD STANDARD 『音楽列車』 ミディ(2024)

 児島が脱退して、その後、鈴木の重要なパートナーとなる三上昌晴をはじめとする新メンバーが加わって6人編成に膨らんだのが『音楽列車』(84年)だ。本作ではワールド・ミュージックの要素を導入。楽曲はますます洗練されて〈架空の映画音楽〉というワールド・スタンダードのスタイルが確立されている。細野はこのデモテープを聴いて、このまま出そうと鈴木に提案したが、鈴木の希望でスタジオで録り直してデビューした。

 この3作から伝わってくるのは音楽に対するピュアな情熱と愛情。最近再評価される〈環境音楽〉として聴くこともできるが、様々なアイデアを取り入れたサウンドは音にも可能性にも余白があって、未完成な美しさを感じさせる作品だ。