(左から)鈴木惣一朗、アーサー・ジェフス

父サイモンの意思を引き継ぐ形で、2009年にアーサー・ジェフスが始動。以降、精力的に活動を続けているペンギン・カフェが、新作『Handfuls Of Night』を引っ提げての来日公演を10月に行った。残念なことに出演を予定していた〈朝霧JAM〉は、台風接近のため中止になってしまったが、東京・キネマ倶楽部での単独公演は予定通りに開催。南極に暮らすペンギンたちを着想元に、ペンギンを擬人化した世界をシネマティックなサウンドで描いた新作からの楽曲にフォーカスした前半。そしてペンギン・カフェ・オーケストラ(以下、PCO)の名曲も披露した後半という二部構成の公演は、キャバレー跡地の会場に優雅な空間を作り出していた。

今回は、かねてからPCOへの思慕を公言しており、WORLD STANDARDやSoggy Cheeriosなどでの活動で知られる音楽家、鈴木惣一朗がアーサーにインタヴュー。PCOの遺伝子を宿した両者が、初めて顔を合わせた。 *Mikiki編集部

 


97年に亡くなったサイモン・ジェフス(ペンギン・カフェ・オーケストラ創設者)さん。20年以上の時間が経過しても、彼の音楽を忘れたことはなく〈サイモンさんだったら、こんな時どんな音を重ねるだろう?〉とスタジオでも自問自答する日々。音楽の師と呼べる人は数々あれど、僕にとっては特別な音楽家だ。だからこそ、その血を引く息子のアーサーくんに会うことは大きなことで、インタヴュー当日は緊張していた。けれど、彼の顔を見たとき、僕の力はふっと抜けた。その優しい瞳に、柔らかな笑顔に、懐かしい友人にでも会ったような気持ちになった。短い時間だったけれど、本当に会えて良かった。

PENGUIN CAFE 『Handfuls Of Night』 Erased Tapes/インパートメント(2019)

 

父の築いた馴染みのある世界に新しい自分を入れてみる

――(WORLD STANDARDの2008年作『花音』を渡しながら)これは10年前に僕が作ったアルバムで、あなたのお父さんに捧げているんです。僕は彼にすごく影響を受けていて。

「オー、サンキュー」

――ニュー・アルバム『Handfuls Of Night』、すごく良かったです。すでに5回聴いたんですけど、いままでよりも力強い気がしました。

「そうですね。これまではいろいろな方向に進んでいたのが、今回は焦点が絞れて作れたように思います。自信を持てたというか」

『Handfuls Of Night』収録曲“Chapter”

――あなたがペンギン・カフェをスタートして、もう10年になるんですね。

「そもそもはじめた理由は父の音楽をライヴという場で演奏し続けることが目的だったんです。なので、ペンギン・カフェ・オーケストラという部屋のドアを開けたままにしておいて、自分自身の考えもそこに入れていっちゃおうという姿勢でいたんですよ。父親が作った世界観のなかで、僕も新しい曲を作っていこうって。ある意味では馴染みのある世界と、自分の〈いまこうしたい〉という本能――楽しみながらそのバランスをとっています」

――アーサーさんはピアノを主体で作曲されているんですか?

「いまはそうですね。だけど以前はギターで書いたこともあります。クアトロで書いたこともありますよ」

――なんでもできるんですね。

「でも技術的にギタリストとは名乗れないですね(笑)」

――僕もです(笑)。アーサーさんは、ペンギン・カフェのスピンオフ的なサンドッグというプロジェクトもされていますよね。あの名義では、エレクトロニクスも使われていて、すごく興味深かったです。

「そうですね。あれはすごく実験的なバンドでした。サンドッグの要素はいまペンギン・カフェにも入ってきていますね。逆に言うとサンドッグが先に進んでいたってことでもあるのかな」

――サンドッグでの経験が、今回の新作にも活きていると思いました。

「シネマティックな感じは、これまでのペンギン・カフェにおいては抑えていたんですけど、今回は結構出せたと思いますね」

 

余計なもの削ぎ落とした『Handfuls Of Night』

――いい意味で、少しシリアスな作品に聴こえました。

「ペンギン・カフェは父が作った想像の世界をふまえているので、現実を忘れて楽しむことができるものでもあるんです。だけど、今回に関しては遊び心を刺激するおもちゃは必要ないかなと思った。日本盤のボーナス・トラックとしてダウンロードできる “More Milk”が、余計なものを入れていないという点では、いちばん顕著な楽曲かもしれませんね」

――近年の坂本龍一さんが手掛けたサウンドトラック作品にも近い印象を持ちました。無駄なものを削ぎ落としている。

「それは嬉しい感想ですけど(笑)、意識していたわけではないですね。基本は弦楽器とピアノ、パーカッションで成り立っていて、そこにいろいろな音を入れようと思えば入れられるんですけど、今回はあえて足さないことを選びました。ギターにいたってはたぶん1曲だけでしか使ってないと思います」

『Handfuls Of Night』収録曲“At The Top Of The Hill, They Stood...”

――ミニマムなオーケストレーションがすごく印象的でした。これまではいろんな実験をしてきていたのに、今回シンプルになったのが新鮮で。

「今回、スタジオも変えたんですよ。これまで使っていたスタジオには雑然といろいろな楽器が置いてあって、そこで遊ぶように、いろいろな音を足していったんです。だけど、新作を録ったスタジオは、もっと綺麗に楽器が並べられていたんです。机もそうでしょ? ちゃんと何があるかを見えたら、どれを使うべきかわかるけど、ゴチャゴチャしていたら何があるかもわからない(笑)」

――ご自身のスタジオを新しく作られたんですか?

「ええ、うちの自宅の2階です」

――お母様のエミリー(・ヤング)※さんも一緒にいらっしゃるんですか?

※画家。ペンギン・カフェ・オーケストラの作品のアートワークも多く描いている

「いえ、彼女はいまイタリアに住んでいるんですよ」

 

サイモン・ジェフスと2人の思い出

――では、アルバムのテーマを教えてください。

「まず“Winter Sun”と“Midnight Sun”が出来上がったんです。それから、その2曲に挿まれる形で、ほかの楽曲も出来上がり、アルバムになった。僕のなかで、対比した2つの世界を描くというイメージがあったんでしょうね。考えてみると、地球には南半球と北半球があり、こっちが夏になったらあっちは冬になっていて。僕らが冬を過ごしているとき、南極のほうでは太陽がずっと沈まない季節だったりしますよね」

『Handfuls Of Night』収録曲“Winter Sun”

――東洋の禅の考えにも似ていますね。陰と陽、喜びの裏側に悲しみがあって、悲しみの裏側に喜びがある、そういうイメージが今度の作品にはあると思います。

「言われてみると確かにそうですね。おもしろいです」

――今日、あまりお父さんのことは話さないようにと思っていたんですけど……(笑)。サイモンさんがペンギン・カフェ・オーケストラを結成する前に京都に旅行に行かれていて、日本の〈侘び寂び〉に影響を受けてバンドを結成したという話があります。ペンギン・カフェのこのストーリーが、僕はとても好きなんですが。

「父のいいところは、内面で非常にバランスのとれている人だったんです。2面性を上手に内包していました。いつもシリアスなわけじゃないけれど、何をしていても必ず芯の部分では真剣に物事を考えていましたね」

――彼の生前に3度ライヴを観ているんです。いちばんはじめは35年前。

「ガッデム(笑)」

――(笑)渋谷のLa.mamaというライヴハウスでおひとりで演奏してました。人形師の辻村ジューザブローさんも一緒でした(サイモン・ジェフスは人形芝居『高野聖』の音楽を担当)。

「今回僕らを呼んでくれたSMASHのいちばん偉い人は、父の来日公演を主催していたらしいんですよ。今回は息子が来たってね(笑)」

 

ローファイなんだけど、いろいろな冒険をしている

――“Adelie”という楽曲が気に入っています。いわゆるドローン・ミュージックなのに、音楽的に何も起きていないのでは決してなくて、曲が進むなかでいろんなことが起きている気がしました。

「この曲はファースト・テイクを使っているんです。ピアノとベース、パーカッションで同じ部屋に集まって録った。あとからハルモニウムなどを足してはいるんですけど、最初の演奏ならではの〈手探りながらも楽しい〉みたいな雰囲気がサウンドにも出ているのかもしれませんね」

『Handfuls Of Night』収録曲“Adelie”

――ペンギン・カフェ・オーケストラの『Broadcasting From Home』(84年)に収録されていた“Air”にすごく近い印象でした。

「ローファイなんだけど、いろいろな冒険をしているって感じですね。僕はその比較、とてもいいと思います」

――使用している楽器についても教えてください。ピアノはブリュートナーを使っているんでしょうか?

「最近は新しいアップライト・ピアノを使っています。フェルトを使ってカスタマイズし、ソフトな音を出せるようにしているんですよ。ブリュートナーはスタジオに2つ置いています。ひとつは大きなグランド・ピアノ」

――羨ましいです。日本にはないので、使ってみたいんですよね。ビートルズの“Let It Be”などでも使用されていますね。

「そうそう。アビィ・ロード(・スタジオ)にもあるんですよね」

 

これからのペンギン・カフェ

――アーサーさんはバロック時代の楽器の響きを研究していますよね?

「今回、ヴァイオリンを弾いているヴィンセント(・グリーン)は自分で楽器を作れるんですよ。チェロもヴィオラもヴァイオリンも古いものをもらって、自分で改修しているんですよね」

――ヴァイオリンも普通の弦ではなく、ガット弦をあえて使っているのが興味深かったです。

「そっちのほうが歌っているように響くんですよね。ガット弦のほうが余韻深い気がしています」

――僕もよくそうしています。チューニングは難しいけど、味わいが深い。

「そうなんです。きちんとチューニングすると狂わないんだよね」

――ルネッサンス期の作曲家が好きというのは存じているんですけど、イングランドの作曲家、ジョン・ダウランドはお聴きになりますか?

「いや、知らないですね。いつの作曲家ですか?」

――はるか昔、17世紀の音楽家で〈涙のパヴァーヌ〉という曲があるんですけど、あなたの作る音楽にすごく近いものを感じています。ところで、お母さんの影響から絵画や芸術方面への興味はありますか?

「不思議なことに、母が絵を描くにもかかわらず、僕はそんなにヴィジュアルのほうに関心がいかなかったんですよ。母がフィレンッエにいるから、興味を持とうとはしているんだけど、なかなか自分では描こうとは思わないんだよね」

――最後の質問です。ペンギン・カフェのプロジェクトはどのようにこれから進めていきますか?

「今回もうアルバムが4作目になり、いまのところ2~3年に1枚のペースでやっているんですけど、個人的にはもっと頻繁に出していきたいと思っているんです。でも、ツアーもやっていますしね。あと最近、子供も出来たし子育てに忙しいってこともある。バンドの編成としてはいま7人で回っているんですけど、そのあたりは臨機応変に変えつつ、だけど核は変えずに続けていければいいなと思っています」

――長く続けてほしいです。今日は会えてうれしかったです。