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歌うことで何が起こせるか

 そして前作から約2年半、このたびリリースされるセカンド・アルバム『Voyager』は踏み固めた足元を蹴って、文字通り未知なる音楽の旅に出た挑戦的な作品だ。瞬時に共有されたトレンドがコピー&ペーストされるように無限増殖する現代の音楽シーンにあって、THE SPELLBOUNDはドリルンベースとメタリックなツーバス・ドラムを組み合わせた高速のリズムとロックの高揚感、さらにラップのような性急な歌唱が共存したオープ二ング・ナンバー“モンスター”を皮切りに、特定のフォーマットに収まりきらない圧倒的な熱量と生々しく歪な創造性を迸らせている。

 「トラックのスマートさだけでいうなら、AIによる自動生成のほうが短時間で圧倒的なクォリティーのものができるし、歌詞の生成も精度が上がってきてる。ただ、AIは人間の創造性まではキャプチャーできないし、例えば、今回の作品に収録されている14曲も、AIにキーワードを入力したら、近いものを生成してくれるかもしれないけど、それを14曲並べたとき、ひとつのバンドの作品に聴こえるかどうかといったら、たぶん聴こえないんですよ。じゃあ、何がこのアルバムをTHE SPELLBOUNDというバンドの作品にしているのか。制作の際に音色やフレーズ、言葉を選ぶとき、相当なカロリーを消費して迷いながら選択していくんですけど、それらが折り重なって1曲になったとき、曲の至るところに人の手垢のようなものが付着して、それが生き物のようにうねったり、哲学のような思念を帯びたりしながら、作品に一貫性を与える。自分は人が誠心誠意、手を動かすことによって生まれるマジックに関心があるんです」(中野)。

THE SPELLBOUND 『Voyager』 NBCユニバーサル(2024)

 “世界中に鳴り響く耳鳴りの導火線に火をつけて”や“すべてがそこにありますように。”に象徴される、圧倒的な高揚感に満ちたアルバム前半は、分厚いギター・ノイズを引き連れた高速ビートが直線的に登り詰めていくと共に、小林が怒濤の勢いで言葉を吐き出す様が強烈な印象を残す。JESSE(RIZE/The Bonez)をフィーチャーした5曲目の“2Colors”から窺えるように、その歌唱法はヒップホップからインスピレーションを得たものだろうが、ロックの性急なシャウトとフィジカルなレヴェルで融合することで、オリジナルな表現へと昇華されている。

 「ものすごいスピードで連打される言葉のどこにフォーカスを当てるか。記憶に残る言葉を刻みながら、通り過ぎてゆく映像をいかに美しく描くか。今回は、作詞の領域を越えたヴィジュアライザーみたいな表現を実践しているんですけど、人間の知覚の限界を意識しながら、サウンドのアレンジメントと言葉のコーディネイトの両面から攻めているので、その気の遠くなるような作業を諦めずにできる小林くんとじゃなかったらこのアルバムは絶対に出来なかったと思いますね」(中野)。

 メランコリックなシューゲイズ・テクノ“LOTUS”やシンフォニックなIDM“約束の場所”、チルなクリック・ハウス“僕のキーホルダー”など、アルバム後半では膨大な言葉数を費やしたうえで、美しくポジティヴな心象風景を歌い描く小林。中野との厳しく濃密なアルバム制作を通じて、ダイナミックな推進力を得たTHE SPELLBOUNDは大いなる一歩をここから踏み出そうとしている。

 「中野さんと出会う前の自分は、目の前に誰がいようがいまいが表現することで満足していた。でも、いまは自分が言葉を発して歌うことでどんないいことが起こせるのか――それが一緒に音楽を作るうえでの価値基準になっています。そのことを2人で探求して、掴み取ったものが作品になった。どの曲のどの部分にも意味があるし、価値があると確信が持てる。一音一音、一言一言すべてに手垢がついていて、すべての曲に多重的な音楽体験が凝縮されている本作は、自分にとって人生そのものです」(小林)。

THE SPELLBOUNDの2022年のシングル“すべてがそこにありますように。”(NBCユニバーサル)

The BONEZの2023年作『Yours』(TENSAIBAKA)