過渡期ならではの模索と挑戦
1982年にCDが販売開始されても、誰もがすぐにCDを買い始めた訳ではなく、しばらくは〈過渡期〉が続きます。オーディオマニアはレコードを基準としたこだわりのシステムを構築している訳で、新しいソフトに切り替えることはかなりの冒険。一般的な音楽ファンも、利便性で選ぶなら既にカセットがあり、レコードのコレクションを辞めてCDを買うことはなかなかありません。また、CDと同時に登場した初期の据え置き型のCDプレイヤーはいずれも20~25万円とかなり高額でした。
1984年になると、当初はクラシックが中心だったCDのリリースも、ポップスを含めラインナップを拡大し、日本レコード協会がCD推進委員会(この連載とはもちろん、何の関係もなく……)を発足するなど、ハードとソフト両面から、音楽ビジネスにおけるCDの勢力拡大が進められていきます。レコードメーカーは全国のレコードショップや地域ごとのレコード商業組合に出向いて、コンパクトディスクとは0と1で記録されたデジタルのデータを、針ではなく非接触のレーザーで再生するソフトで……という、CDの基本構造を解説する説明会を行っていたなど、非常に過渡期的なエピソードもあります。
1984年にはポータブルCDプレイヤー〈SONY D-50〉が約5万円で発売されました。この連載で度々登場する、往年の定番プレイヤー〈Discman〉シリーズの元祖ですね。この頃から、オーディオマニアの裕福な中高年層から、ロック・ポップスを聴く若年層もCD販売のターゲットになっていきます。1985年にはデヴィッド・ボウイが自身のディスコグラフィーをすべてCDにてリイシューするなど、CDというメディアに歩み寄るミュージシャンも増えていきます。
また、当時のCDを巡る音楽ファンの状況として面白いのが、この時期、「ミュージック・マガジン」では〈CDマガジン〉と称して、雑誌背表紙側から始まる横書きの〈雑誌内雑誌〉としてCDに特化したコーナーが設けられていることです。音楽ファンとしてもCDが無視できない存在となりつつあるものの、レコードとはまた別の枠であった当時の空気が伺えますね。

CDの普及と浸透
そして1986年6月にはついに、CDがレコードの生産数を上回ります。1982年秋の時点では関係者も〈レコードとのクロスポイントは5年後〉と予想していたことを考えれば、CDの浸透は思ったよりも早く訪れたと言えるでしょう。
そして1988年にはCDシングル、短冊型のパッケージの8cm CDが登場。日本では光GENJI、長渕剛、Wink、プリンセス プリンセス、米米CLUB、B.B.クィーンズ(“おどるポンポコリン”)……などなど、世のタイアップソング~カラオケブームの需要の高まりを背景に、女性や若年層を中心としたヒット商品が次々と生まれていき、いよいよCDがレコードに代わる存在として浸透していきます。
かつて未来を照らした光のメディア
と、駆け足ではありますが、1980年代のCD誕生期を振り返って見ました。1990年生まれの筆者にとって、CDというのは生まれた時から存在していたマザーメディア(これ別に私の作った言葉じゃないですよ。世代的に身近なメディアを指す言葉です)なので、その成立過程や浸透期の空気については、過去の文献から推測するしかありません。
CDの盤面の煌めきは私にとってはノスタルジーの対象ですが、かつては未来を照らす文字通り〈光〉のメディアであった、そんな時代を想像すれば……CDという存在がまた愛おしく感じられるのではないでしょうか。1990年代以降のCDの歴史についても、また別の機会に触れましょう。
参考文献
中島平太郎、CDs21ソリューションズ「コンパクトディスク その20年の歩み」
井橋孝夫「コンパクトディスク(CD)の開発、実用化技術系統化調査」
DutchAudioClassics.nl「Perfecting the Compact Disc System - The six Philips/Sony meetings - 1979-1980」https://www.dutchaudioclassics.nl/The-six-meetings-Philips-Sony-1979-1980-The-Start-of-Digital-Audio/
ソニーグループポータル「Sony History 第8章「レコードに代わるものはこれだ」<コンパクトディスク>」https://www.sony.com/ja/SonyInfo/CorporateInfo/History/SonyHistory/2-08.html
Kees A. Schouhamer Immink「Shannon, Beethoven, and the Compact Disc」https://www.turing-machines.com/pdf/beethoven.htm
PROFILE: Kotetsu Shoichiro
ミュージシャン(トラックメイカー/DJ)。90年生まれ、香川県出身。ダンスミュージック全般を手がけ、ラッパーやゲーム音楽、CMなどに楽曲提供の実績多数。2021年にはラッパー・T-STONEへの提供曲“Let’s Get Eat”がBillboard JAPANのTikTok Weekly Top 20で1位を獲得。また2022年にはtofubeatsのアルバム『REFLECTION』収録の“Vibration feat. Kotetsu Shoichiro”へラップで客演し話題を呼んだ。ライター/インタビュアーとしてはミュージック・マガジン、Quick Japan、CINRA、関西ソーカルなど数々の媒体に寄稿。ほか、さとうもか“Lukewarm”“Loop”をはじめ他アーティストのMVなど映像/アニメーションの編集も手がけるなどジャンル/形式に囚われない幅広いスタイルで活動をおこなっている。
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