50周年記念! 単行本初収録・激レア未発表画稿を多数掲載――知られざる写楽保介の姿を堪能できる1冊!

 熱気に溢れた面白い時代だった。1970年代。原住民がアップになったモンドな写真が表紙の週刊少年マガジンを列車に乗ると大勢が喰い入るように読んでいた。巻頭特集はUFO、霊、超常現象、古代遺跡、古代文明などがテーマで本当にあるのかどうかな世界がいかにも実際にありそうな描写で大伴昌司が構成し、小松崎茂、石原豪人などがリアルでおそろしく巧いタッチで挿絵を展開していた。TV番組「木曜スペシャル」にはユリ・ゲラーが出演。スプーンを曲げ、時計を生き返らせた。うっかり触れたものは世代関係なしに夢中にさせられた。「ノストラダムスの大予言」「日本沈没」のブームもあった。

 そんな時代の1974年から1978年にかけ「週刊少年マガジン」に連載された「三つ目がとおる」の〈雑誌掲載時の初出版と単行本版を見比べることができる特別な本〉が刊行された。主人公・写楽保介はかつて古代ムー大陸で高度な超古代文明を繁栄させた 〈三つ目族〉の末裔。額に貼られたバッテン型の白い絆創膏を剝がすとその下に封じられた第三の目があり、超能力と天才的頭脳を保介にもたらすという設定。保介には現代文明を滅ぼし〈三つ目王国〉を再興するという野望があるのだが、親友で想いを寄せるちょっと気の強い美少女・和登サンこと和登千代子に野望を阻止されるという物語だ。オカルト・ブームを背景に手塚治虫が挑戦したロマンティックでミステリアスな超古代文明をテーマにした作品だ。

手塚治虫 『三つ目がとおる ミッシング・ピーシズ』 立東舎(2024)

 収録作の中でも特に「キャンプに蛇がやってきた」はほとんど同じ絵であるはずなのにセリフが違うことで全く別の作品となっていることに驚かされた。また奈良県明日香村の巨石群遺跡を舞台にした「酒船石奇談」はまるでハイチのヴードゥー教のゾンビ・パウダーよろしく、巨石の大きな溝を使って奴隷化する薬を調合していたという手塚独自のリアリティある説が描かれている。「三つ目がとおる」にまつわるレアかつさまざまな画稿を集約。単⾏本化で失われた「三つ目がとおる」拾遺集として50周年だからこそ実現した贅沢な1冊となっている。