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Thom Yorke “Dawn Chorus”
by hiwatt

過小評価されている印象が強いトムのソロキャリアの中でも、“Dawn Chorus”だけはなにかが違う。この曲では、トムがキャリアを通して愛用するシンセサイザー、Prophetがフィーチャーされている。リリース直後から、ネット上にあるProphet系の試奏動画で、この曲が使われているのをしばしば見かけることがあった。つまりは、エレクトロ界隈でインスタントクラシックとなったのだ。事実として、Spotifyでもトムの中では2番目の人気曲となっているし、1年のスパンでジョン・ホプキンスにもカバーされるなど、楽曲としての魅力が強い。彼のアコースティックなカバーにも魅了されたからこそ、トムが弾き語る“Dawn Chorus”が聴きたいのだ。

ポール・トーマス・アンダーソンが監督した、『ANIMA』のビデオの中でも、戦場のような日常を切り抜けて、ラストに愛する人と共に帰路に着くシーンで使われるのがこの曲。しかも、相手は単なる役者ではなく、トムの私生活のパートナーであるデジェイナ・ロンチオーネで、きっとトムにとっても思い入れのある楽曲なのだろう。

“Fake Plastic Trees”や“Karma Police”のような、何百回と聴いてきた楽曲をゴージャスな音響のホールで聴けたならば、最高の時間となるだろう。一方で、“Last Flowers”や“Daily Mail”のような隠れた名曲を聴けたのならば、それはそれでレアな体験になる。だが、冷静と情熱が同居する、トム・ヨーク史上、最も美しくリリカルなこのラブソングにも注目して欲しい。

 

Radiohead “Reckoner”
by 八木皓平

ここ数年、様々な音楽家がレディオヘッド『In Rainbows』からの影響を口にし、カバー曲も発表している。アーロ・パークスやプーマ・ブルー、リアン・ラ・ハヴァスのようなシンガーソングライターや、ケリー・リー・オーウェンスのようなテクノミュージシャン、近年SNSを中心に日本で大きな話題となったロックバンド、フリコもレディオヘッドのフェイバリットアルバムに本作を挙げていた。メランコリックなソングライティングと、エレクトロニカ以降のミニマリズムともリンクする、緻密で繊細なアンサンブルが特徴的で、ロックバンドとしてのレディオヘッドという点からするとキャリア最高峰は本作だと思う。

“Reckoner”はレッド・ホット・チリ・ペッパーズのジョン・フルシアンテのギターワークからインスピレーションを受けた楽曲で、特徴的なパーカッションと、執拗に反復されるトム・ヨークによるギターリフ、後半のジョニー・グリーンウッドの手掛けるストリングスアレンジが印象的な美しいバラードだ。『In Rainbows』の中心と言ってもいい楽曲で、ピッチフォークの〈The Top 500 Tracks Of The 2000s〉や2011年にNMEでおこなわれた特集〈過去15年間のベストトラック150〉にもランクインしており、海外での評価も高い。

今回のソロツアーはすでに海外でおこなわれているのだが、セットリストをチェックすると“Reckoner”を演奏しており、生で観たい気持ちがより高まった。『In Rainbows』のなかでもとりわけ、弾き語りとしての魅力を備えたこの楽曲は、今回のツアーに相応しい。『In Rainbows』がリリースされて17年の時が経ったが、トム・ヨークがギターを爪弾きながらファルセットで発する、〈だって僕らは何もない海辺に打ち寄せるさざ波のように離れ離れになるんだから〉というフレーズのリアリティは、決して色褪せない。

 

Radiohead “I Will”
by 李氏

ハマスの奇襲攻撃への報復と人質の解放を目的とした、イスラエルによるパレスチナ自治区での軍事攻撃が始まってから1年以上が経過した。現在パレスチナ側の死者数は4万人を超え、その大半が子供や女性といった非戦闘員が占めているとされる。夥しい数の市民を巻き込み、当初掲げた目的から逸脱して久しいイスラエルの行動に対して〈ジェノサイド〉と国際的な非難が高まりつつあり、現在に至るまで多くの音楽アーティストがそれに賛同を表明した。

今回取り上げたレディオヘッドの楽曲である“I Will”は湾岸戦争時の米軍による民間人殺害をテーマにしたとも言われており、歌詞には幼い子供たちが直面する悲劇的状況に対する鋭い怒りが滲んでいる。さらにこの楽曲を収録したアルバム『Hail To The Thief』は、イラク戦争に邁進する2003年当時のブッシュ政権に対する批判が前面化しており、バンド史上最も政治的な作品とも評価された。

このように気候変動問題やグローバルな経済格差をはじめとして様々な政治問題に対して発言や行動を続けてきた彼らだが、2024年11月現在、イスラエルによる攻撃が始まってから1年以上が経過した今もなお、同国の軍事行動に対するトム・ヨークを含むレディオヘッドのメンバーによる声明は一切なされていない。バンドがイスラエルへの沈黙を貫くなかで、〈殻を抜け出して本当の世界と向き合うべきなんだ〉と歌うかつてのトムの物憂げな歌声は、喉に引っかかった魚の小骨のように今も居心地悪くこだまし続けている。

 


LIVE INFORMATION
Thom Yorke: everything
playing work solo from across his career

2024年11⽉12⽇(⽕)、13⽇(⽔)大阪 グランキューブ⼤阪 メインホール ※SOLD OUT
開場/開演:18:00/19:00

追加公演
2024年11月15日(金)東京・立川 ステージガーデン ※SOLD OUT
開場/開演:18:00/19:00

追加公演
2024年11月16日(土)東京・渋谷 LINE CUBE SHIBUYA ※SOLD OUT
開場/開演:17:00/18:00

2024年11⽉18⽇(⽉)福岡・博多 福岡サンパレス ※SOLD OUT
開場/開演:18:00/19:00

2024年11⽉19⽇(⽕)広島 広島⽂化学園HBGホール
開演/開場:18:00/19:00
⼀般プレイガイド発売⽇:2024年6月29日(⼟)
S席:18,000円(税込)
A席:14,000円(税込)
INFO:YUMEBANCHI(広島)082-249-3571

2024年11⽉21⽇(⽊)愛知 名古屋国際会議場センチュリーホール ※SOLD OUT
開演/開場:18:00/19:00

2024年11⽉23⽇(⼟)東京・有明 東京ガーデンシアター ※SOLD OUT
開演/開場:17:00/18:00

2024年11⽉24⽇(⽇)東京・有明 東京ガーデンシアター ※SOLD OUT
開演/開場:16:00/17:00

2024年11⽉26⽇(⽕)京都 ロームシアター京都 メインホール ※SOLD OUT
開演/開場:18:00/19:00

協力:BEATINK
企画・制作・招聘:クリエイティブマン