恋すること=生きることに突き動かされて……
あらゆる人には、それぞれ生きていることの必然性みたいなものが必要だ、という考え方がある。しかし、私たちは、なにかの目的や目標をあらかじめもって生まれてきたわけではないし、仮にあったとしても、それは実際のところ自分とは無関係なところで与えられた(おしつけのような)ものである。むしろ、生きていること、存在していることが偶々である(でしかない)、だからこそ、それが必要なのだということであり、その理由を事後的に見つけようとしているにすぎない。ある人はそれに成功したように見え、ある人は見つけられずにいるように見える。ある人は大人になっていくように見え、自分は子どものまま、取り残されたように感じてしまう。
カイちゃんは29歳(2巻で30歳になりました)で、夢を持って上京したがただ10年が経ってしまった。一流企業の社員食堂でアルバイトしながら、今日もまた〈なんのために〉生きているかと自問する。誰にもそれぞれ自分の存在に意味を与えてくれる何かがある、しかし、自分には〈なんもない〉から、勤め先で定食のからあげを、勝手に想いを寄せる高円寺くんに4個も増量サーヴィスしてしまう。カイちゃんは、いつしか夢を忘れようとして、それこそが自分が存在していてもいい理由として、別の夢=恋に心をときめかせ、それに邁進しようとする。
誰に向けるわけでもなく会社のぼやきをつぶやく高円寺くんと、それを個人的なメッセージとして受け止めたカイちゃんとのコントラストは、SNS時代のロマンスとも言える。ふたりは奇跡的に邂逅し、いろいろな出来事が起きるが、カイちゃんはすべてを投げ打って追いかけていく。都合のいい思い込みと、献身と、自己嫌悪と、後悔と、あきらめと、カイちゃんの感情は目まぐるしく変わっていくけれど、大人になっていくクラスメイトたちや、同世代の〈夢追い人〉千林くんといった登場人物は、カイちゃん自身をつねに見つめ直させる。自分がいてもいい世界はどこなのか(進行中)。いや、キミのいる世界の中に存在していたい。
この作品に描かれる月や夜の街はキラキラしていて、そこに登場するカイちゃんも輝いてとても魅力的だ。なぜって〈夜は恋する人たちのものだから〉と気取りたくなるような、ステキな作品なのです。