すべて初出音源! 50年以上の芸術的なパートナーシップから生まれた数々の名演がここに集結!
昨年2月、88歳で生涯を終えた小澤征爾。その追悼ボックス盤が、ベルリン・フィル・レコーディングスからリリースされる。1979年から96年まで、つまりカラヤン時代からアバド時代にかけてのベルリン・フィルとのライヴ・レコーディングで、バラエティ豊かなレパートリーが並ぶ。さらに、すべて初出!
最初期の録音となるワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」より“前奏曲と愛の死”には、オーケストラと指揮者の関係がにじみ出ている。カラヤン時代のベルリン・フィルならではのゴージャスでスタイリッシュな響きをどこかに残しつつ、それを前面に出すことなく、素朴な美しさが生々しいまでに伝わってくるのだ。そのまったくカッコつけない、エモーショナルな音楽こそ、カラヤンが自ら持ち合わせなかったスタイルとして、弟子の小澤へ委ねたものなのだろう。
マーラーの交響曲第1番での高い集中力からの爆発力。ラヴェルのピアノ協奏曲での、アルゲリッチとの張りつめたセッションのなかから生まれてくる自然な高揚感。チャイコフスキーの交響曲第1番の演奏からは、小澤征爾という個性がはっきりと伝わってくる。勤勉な指揮に対し、オーケストラがそれに実直に応え、熱量がみなぎっている。とりわけ両端楽章でのフーガ処理が綿密だ。
ヒンデミットの“シンフォニア・セレーナ”といった珍しい曲が入っているのも嬉しい。ヒンヤリとした質感と生き生きとした躍動をきちんと同居させるといった、マエストロの手腕が光る。
そして、ハイドンの交響曲第60番。“うかつ者”というタイトルで知られるように、終楽章の冒頭で調子外れの音を出し、調弦し直すといった遊び心に満ちた交響曲だ。この曲をベルリン・フィルが演奏するのは、この小澤との演奏が初めて。初演者たる小澤は、斎藤秀雄伝授の折り目正しいリズムで進めていく。オーケストラのプライドが許さなかったのか、指定箇所で音も外さず、調弦もきちっと指揮に合わせるかのよう。ことごとく生真面目。それがじつに可笑しい。