坂本龍一の痕跡
細井「坂本さんが最後に言った〈Ars longa, vita brevis(芸術は長く、人生は短し)〉は、その通り過ぎて。私は《Tangent》で、坂本さんの音楽とともに舞台にいたから〈まだいるな〉みたいに勝手に思ってしまう。坂本さんが亡くなったあとも、いまでもずっと展覧会が行なわれているから、残された芸術を私たちはまた見ることができるし、作品から坂本さんの考えを受け取ることができる」
畠中「当然作品というものはアーティストよりも長くこの世界にとどまり、生き続けるものですし、そうあるべきだと思います。またそれは、作品に対してもうアーティストがなにも手を下すことができなくなるということでもあるんですよね。だから、作品をアーティストの意志のもとに、いかに展示し続けるかが重要になりますね。
たとえば、昨年度に開催した〈坂本龍一トリビュート〉展では、MIDIピアノで坂本さんがかつて弾いた曲がくりかえし再現されるとか、坂本さんが録音していたフィールド・レコーディングが聞こえてくるといった、坂本さんの行為の痕跡が展示されていたとも言えるものだと思います」
細井「映画『Opus』で坂本さんの呼吸音が聞こえてくる録音もすごかったですね」
畠中「それはあえて入れているわけですよね。入らないようにもできるし、入ってしまったというようにもできるわけだけど、それを意図的に行なうことで、『12』では生々しい、まさに坂本龍一が弾いていた、ということを感じさせる。ああいう呼吸音とか演奏に付随する物音だとかは、ノイズなのではなく、坂本さんがたしかにそこにいたんだという、その人の存在を感じさせる効果がある。一方の『Opus』は、映像がズームしていくにつれて、音もクローズアップすることで、観客の目と耳が坂本龍一という存在に肉薄するという効果があったように思います。また、あの映像によって坂本さんの身体もそうだけど、空音央さんの身体も見えてくる気がする。それは実際きれいに撮られた映像とかノイズのない録音、といった夾雑物のないものでは消去されてしまう存在感のようなものかもしれないですね。
先の展覧会でも、そうした坂本さんの痕跡が、坂本さんその人を感じさせるものになっていた。坂本さんは展覧会期中ずっと会場にいたように感じましたし、それはいまでも消え去ってない感じがしているんです」
畠中実(Minoru Hatanaka)
1968年生まれ。1990年代末より展覧会企画や音楽イヴェント企画に携わり、現在までさまざまな展覧会を手がけ、作家の個展企画も多数行っている。美術や音楽について執筆活動も行ない、おもな編著書には、「現代アート10講」(田中正之編、武蔵野美術大学出版局、共著、2017年)、「メディア・アート原論」(久保田晃弘との共編著、フィルムアート社、2018年)など。
細井美裕(Miyu Hosoi)
1993年生まれ。自身の声による多重録音作品のほか、マルチチャンネル音響をもちいたサウンドインスタレーションや屋外インスタレーション、舞台作品など、空間の認識や状況を変容させる音に焦点を当てた作品制作を行う。これまでに NTT ICC、YCAM、国際音響学会、長野県立美術館、愛知県芸術劇場、羽田空港、日比谷公園などで発表。2025年5月にはバービカン・センター(ロンドン)で新作を発表予定。
EXHIBITION INFORMATION
〈坂本龍一 | 音を視る 時を聴く〉
2024年12月21日(土)- 2025年3月30日(日)東京都現代美術館
コラボレーション・アーティスト:高谷史郎/真鍋大度/カールステン・ニコライ/アピチャッポン・ウィーラセタクン/Zakkubalan/岩井俊雄
スペシャル・コラボレーション:中谷芙二子
■企画展示室 1階
坂本龍一+高谷史郎《TIME TIME》2024(新作)
坂本龍一+高谷史郎《water state 1》2013
坂本龍一 with 高谷史郎 《IS YOUR TIME》2017/2024
カールステン・ニコライ《PHOSPHENES》《ENDO EXO》2024(新作)
音楽:坂本龍一
■企画展示室 地下2階
坂本龍一+アピチャッポン・ウィーラセタクン《async–first light》2017
アピチャッポン・ウィーラセタクン《Durmiente》2021(日本初公開)
坂本龍一+高谷史郎《async–immersion tokyo》2024
坂本龍一+Zakkubalan《async–volume》2017
坂本龍一+高谷史郎《LIFE—luid, invisible, inaudible...》2007 *アーカイブ特別展示:1996–97年のパフォーマンスを再現した新作インスタレーション
坂本龍一×岩井俊雄《Music Plays Images X Images Play Music》1996–1997/2024(初公開)
■中庭(1階/屋外)
坂本龍一+真鍋大度《センシング・ストリームズ 2024—不可視、不可聴(MOT version)》2024
■サンクン・ガーデン(地下2階/屋外) *スペシャル・コラボレーション
坂本龍一+中谷芙二子+高谷史郎《LIFE–WELL TOKYO》霧の彫刻 #47662 2024(新作)