西海岸コミュニティへの帰属意識と地元愛
また音楽性についても書いたように、“Not Like Us”はケンドリックの西海岸への帰属意識や、地元や同胞への思いを大いに強調した曲になっている。2パックへの言及、MVでのビジュアル表現、さらに〈The Pop Out〉でのパフォーマンスもそうだ。
〈デス・ロウがやったみたいにいじめてやる〉というところで出てくるデス・ロウは、2パックも所属した、シュグ・ナイトとドクター・ドレーが設立したレーベルである(現在の経営者はスヌープ・ドッグ)。ほかに〈オークランドでのライブがお前の終着駅〉や、再びデマー・デローザンの名前を出した〈デローズが地元に帰ってきた嬉しいよ、お前なんかに見合わないから〉(デマーはドレイクがアンバサダーを務めるトロント・ラプターズからサンアントニオ・スパーズを経てサクラメント・キングスに移籍した)、〈俺には地元がついてる(City is back up)〉といったラインも同様。
コンプトン、ひいてはベイエリア、そして西海岸への帰属や共同体意識、ローカリティに根差すアイデンティティを謳いつつ、曲の後半においてケンドリックはドレイクを自身と対照的な〈クソな入植者、植民地主義者(f**kin’ colonizer)〉として対置する。奴隷制度の歴史にも言及しながらフューチャー、リル・ベイビー、21サヴェージ、クエイヴォ、ヤング・サグ、2チェインズとドレイクと交流があるラッパーの実名を挙げつつ、彼がアトランタを中心にした南部ヒップホップカルチャーやスタイルを金儲けに利用し、搾取してきたことをストレートに告発しているのだ。南部のトラップに限らず、〈カルチャーバルチャー(文化で儲けようとする者)〉として様々なジャンルをその時々でつまみ食いしてきたことで知られるドレイクの姿勢や態度への手酷い攻撃である。
アウトロの〈あっちにステップ、こっちにステップ〉というコミカルなところは、“Not Like Us”のダンサブルな側面を強調している。それと同時に、ドレイクの寄る辺なさ、どっちつかずでふらふらしており、帰る場所や所属するコミュニティがどこにもないことを揶揄しているようにも聞こえてならない。だからこそ、〈やつらは俺らと違う(They not like us)〉とケンドリックは言うのである。つまり確固たる仲間と地元文化を背景に持つケンドリックと、根無し草で他者の文化を分捕って利益を上げているだけのドレイク、という対比が“Not Like Us”を貫いている。
そのポイントで面白いのが、ケンドリックがドレイコ・ザ・ルーラーの独特のフロウを真似ているのではないか、という憶測が広がったこと。これは、ドレイコの弟ラルフィ・ザ・プラグが訴えたことである。
ドレイコはLA出身のラッパーで、2021年に刺殺された。元々は西海岸ギャングスタラップの新たな流れを形作っていた才能で、発声をかなり抑えて低い声で呟くダウナーなムードのフロウで知られていた。ドレイクと共演したことでも知られており、28歳の若さで亡くなった西海岸のラッパーにケンドリックがこの曲でオマージュを密かに捧げたと考えると、とてもナチュラルかつ必然的だ。
愛と戦争の共存
“Not Like Us”が大旋風を巻き起こしたあと、盟友SZAによるインタビューでケンドリックはこの曲について語った。曰く、「“Not Like Us”は、俺自身や俺が代表するタイプの男のエネルギーを表現してる。倫理観や価値観を持ってて、信じるものや立脚するものがある男。迎合しないけど、自分の間違いを認め、その過ちを共有する勇気を持ってる。恐怖に由来するイデオロギーや経験を深く掘り下げて、〈男らしくない〉なんて感じなくてもそれを表現できる男なんだ」。さらに、「俺は自分が怒りに駆られてるとは思ってない。愛と戦争を信じてて、両方存在する必要があるんだ」とも。
ケンドリックは『GNX』でも攻撃的な態度(そして、そのことに対する葛藤)を見せており、一方で前述の地元愛なども貫いている。まさに愛と戦争の共存だ。そしてそもそもビーフとは流血沙汰にならないための代わりのスポーツでもあり、そうであるがゆえに、そこでプロレス的に演じられる言葉は大袈裟に誇張されすぎる傾向がある。だからこそこのディストラックで踊り、この曲に踊らされ、強い言葉が横溢していて思わずラップしたくなるリリックをカラオケする前に、どんな曲であるのかを一度立ち止まって考える必要はあるだろう。
“Not Like Us”が彼の語る通りの曲であるかについても検証する必要があるとはいえ、あまりにもキャッチーでノリやすすぎた、そのため大ヒットした“Not Like Us”の功罪について、ビーフの喧騒が落ち着き冷静になった今、どうしても考えざるをえない。“Not Like Us”は私たちをユナイトさせたのだろうか? あるいは、〈俺とお前は違う〉と分断を加速させたのだろうか?
参考記事
https://variety.com/2024/music/news/kendrick-lamar-not-like-us-mustard-creation-1236236678/
https://www.billboard.com/music/rb-hip-hop/mustard-not-like-us-kendrick-lamar-album-rihanna-collab-1235719917/
https://www.complex.com/music/a/markelibert/mustard-says-he-made-not-like-us-beat-in-30-minutes
https://www.albumoftheyear.org/songs/best/2024/
https://genius.com/Kendrick-lamar-not-like-us-lyrics
https://www.universal-music.co.jp/kendrick-lamar/news/2024-07-24/
https://www.hotnewhiphop.com/802874-kendrick-lamar-not-like-us-drakeo-the-ruler-flow
https://www.harpersbazaar.com/culture/art-books-music/a62568151/kendrick-lamar-sza-interview-2024/
https://turntokyo.com/features/not-like-us-kendrick-lamar/
https://www.udiscovermusic.jp/columns/explaining-kendrick-lamars-gnx
https://rollingstonejapan.com/articles/detail/42014
RELEASE INFORMATION
リリース日:2024年11月22日(金)
配信リンク:https://umj.lnk.to/KendrickLamar_GNX
TRACKLIST
1. wacced out murals
2. squabble up
3. luther (with sza)
4. man at the garden
5. hey now (feat. dody6)
6. reincarnated
7.tv off (feat. lefty gunplay)
8. dodger blue (feat. wallie the sensei, siete7x, roddy ricch)
9. peekaboo (feat. azchike)
10. heart pt. 6
11. gnx (feat. hitta j3, youngthreat, peysoh)
12. gloria (with sza)
■アーティスト情報
日本公式HP:https://www.universal-music.co.jp/kendrick-lamar/
海外公式HP:https://oklama.com/
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