これこそが新しい道! 苦境と試行錯誤を乗り越えてバンドを動かしてきた6人は現体制初めてのオリジナル作『Forever Howlong』でどんな風景を描く?
生まれ変わった姿
「今回めざしていたことのひとつは、〈広がりのあるサウンドを持った大きな世界を作り出してみよう〉というものだった。以前の僕たちはひたすらスタジオ入りしてそのままレコーディングして……〈そうやってバンドをベストな形で録音できたらいいよね〉みたいな感じだったんだ。けれども今作は、もっとプロデュースされた響きのある作品にしたかった」(チャーリー・ウェイン、ドラムス/パーカッション/バンジョー)。
その言葉にある意識の変化そのものが、メンバー編成やサウンドの雰囲気といった部分以上に彼らの現在地をはっきり示しているのではないか。唯一無二のアンサンブルで高い評価と支持を獲得し、ここ数年でその結束力と進化を証明してきたブラック・カントリー・ニュー・ロード(以下BC,NR)。オリジナル作としては3年ぶりとなった待望のサード・アルバム『Forever Howlong』で、6人はまた新しい道へと足を踏み入れている。
2021年の初作『For the first time』が全英4位まで上昇してマーキュリー・プライズにノミネートされ、翌年の2作目『Ants From Up There』は全英3位を記録……と、新世代UKインディー・ロック〜ポスト・パンクの象徴として期待以上の成果を残してきた彼らだが、その後の道は決して万事快調とはいかなかった。2作目のリリース直前にフロントマン/ソングライターのアイザック・ウッドがいきなり脱退し、目前に控えたツアーもキャンセルを余儀なくされたのだ。思えば、そもそもルーク・マーク(ギター)を除く5名は最初のバンドを失った苦い経験の持ち主でもある。ただ、そこで6人が選んだのは、それまでの楽曲を潔く封印し、新体制で作った曲だけでライヴを行っていくという道だった。そうした〈新曲ライヴ〉の模様は2023年に『Live At Bush Hall』(2022年12月にロンドンで録音)として発表されている。そこでは、新たにメイ・カーショウ(キーボード)とタイラー・ハイド(ベース)、ルイス・エヴァンス(サックス/フルート)がリード・ヴォーカルを分け合う格好で新曲が並び、まったく新しく生まれ変わったBC,NRの姿が記録されていた。
まったく違う作品にできた
その『Live At Bush Hall』に向けた曲作りの経験を「ミュージシャンとして曲作りを学び直した。誰かが持ち込んできた歌の骨格や素材をバンド全員で肉付けするというのは完全に新しい体験だったし、誰かの音楽的パレットに基づいたアイデアからBC,NRの音楽と感じられるものを1からクリエイトしていくのは、実に興味深くて楽しかった」(チャーリー)と振り返る通り、以降も個々の創意がバンドを更新し続けてきた積み重ねの成果は、今回の新作『Forever Howlong』にはまざまざと刻み込まれている。
ジョージア・エラリー(マンドリン/ヴァイオリン)が初めてリード・ヴォーカルを務めた先行シングル“Besties”からもその目覚ましい進化は明らかだろう。ハープシコードやマンドリンが華やかに響く同曲の祝祭感を冒頭に配し、アルバムは全編で新しいBC,NR像を壮麗に披露する。これまで以上にアコースティック楽器を軸に(ルークもほぼアコギを演奏している)スタジオ・ワークを凝らした意匠は、ソフト・ロックやアメリカーナを内包した現代版バーバンク・サウンドと形容することもできるし、英国的なフォークやプログレからの影響を反映しているとも言える。また、歌唱面を女性メンバー3人のみで分け合ったこともバンドの新生ぶりを強く印象付ける点だ。曲作りのプロセスとしては、曲の骨子や歌詞を書いたメンバーがリード歌唱を担当しているようで(ソングライターとしては6人全員がクレジットされている)、三者三様の優美さを融合しながらBC,NRならではの独創性が織り上げられている。
「女性の視点が加わったことで『Ants From Up There』とはまったく違う作品にすることができた。音楽自体もその影響を受けていると思う」(ジョージア)。
「いくつかの楽曲は、『Live At Bush Hall』の収録曲を書いていた頃に作りはじめていたと思う。“Goodbye (Don’t Tell Me)”はジョージアがあの時期に書いていたし、“Two Horses”や“Nancy Tries To Take The Night”“Salem Sisters”はたぶん〈Bush Hall〉のすぐ後に書いたんじゃなかったかな。だからそれらの曲は2〜3年近く存在してきたことになると思う」(メイ)。
「僕らは実に広範囲にわたるツアーをやっていたし、ジョージアもジョックストラップで忙しくしていたから、アルバムに取り組むには相応しくないと感じていた。それが去年の1月になって、すべてにギアが入りつつある感覚になったんだ。この年は自分たちがたぶんアルバムをレコーディングすると思って、そこから本腰を入れていった」(チャーリー)。
時間を共にしてきたから
そんな今作のプロデュースは、近年もラスト・ディナー・パーティーやフォンテインズDCらを手掛ける重鎮ジェイムズ・フォードが担当。ライヴに近い録音を常道としてきたBC,NRが新しい道に進むための道標としては適任だったようだ。
「信じられないくらいすごい機会に恵まれたという感じだった。私たちの多くは彼の手掛けた作品をいろいろ聴いてきたし……これまでのどのアルバムより、彼と組むのは今回がもっとも理にかなっていた気がする」(メイ)。
「とりわけ僕とメイは、ジェイムズのプロデュースした音楽を本当に楽しんできたからね、もっと若かった頃に……と言うと彼は嬉しい顔をしないだろうけどね(笑)。彼のように著名なプロデューサーと組むのは初めてだったけど、〈自分の刻印〉みたいなものを残したがるようなところも一切なかったし、僕たちの目標達成を促進してくれるような人だった。バンドの良い点のひとつって、メンバーそれぞれが求めるものの中間点や落としどころを見つけることで興味深いものが生まれるところなんだけど、ジェイムズはそのバランスを突き止めるのに非常に長けているんだと思う。本当に満足した経験だった」(チャーリー)。
そうしたバランスから生まれた楽曲群は、各人の個性とアイデアの結晶だ。局面によっては歌唱者のシンガー・ソングライター的な顔も味わえつつ、フォーキーな展開から飛躍していくジョージア主導の“Two Horses”、壮大なバロック歌劇のように視界が開けるメイ主導の“For The Cold Country”、変拍子で迫るタイラー主導の“Nancy Tries To Take The Night”などバンド演奏の豊かな彩りで飽きさせない。表題曲では歌うメイ以外の5人がリコーダーを吹いていたりもする。
「〈これらをどうまとめればいい?〉という心配はあった。だけど、〈もっとまとまりのあるアルバムにするために、私はこれについての曲を書きます〉なんてふうにはいかない。それと同時に、もちろん各々の暮らしや人生は違うけど、生活圏や経てきた体験という意味では、一緒にツアーに出て、さんざん時間を共にしてきたから、私たち3人はかなり似ている。だから、アルバムに入った曲にも、似たようなことが別の言い方で浮かび上がっているように感じる。そうじゃない曲もあるけど(笑)」(メイ)。
そんな発言については、ジョージアも「3人の女性メンバーが歌うことで、アルバムに一貫したテーマが生まれた」と認めるところだ。そして、その一貫性が説得力を持ってアルバムの形を構築しているのは、どの曲でも6人が力を結集したからに違いないし、そんな『Forever Howlong』はこのバンドの前途を照らすはずだ。控えめに言っても最高傑作の誕生である。 *出嶌孝次
ブラック・カントリー・ニュー・ロードの作品。
左から、2021年作『For the first time』、2022年作『Ants From Up There』、2023年のライヴ盤『Live At Bush Hall』(すべてNinja Tune)
メンバーの参加作を一部紹介。
左から、チャーリー・ウェインが参加したイーサンP・フリンの2023年作『Abandon All Hope』(Young)、ルイス・エヴァンスが参加したダネシェフスカヤの2023年作『Long Is The Tunnel』(Winspear)、タイラー・ハイドが参加したスカイダディの2025年作『Anchor Chains, Plane Motors & Train Whistles』(Bathtime Sounds)
20年代のホープは5年を経てどうなった?
10年代後半から〈サウス・ロンドン〉やそのインディー聖地〈ウィンドミル〉が脚光を浴び、プロデューサーの〈ダン・キャリー〉や彼が主宰する〈スピーディー・ワンダーグラウンド〉といったワードを伴った〈ポスト・パンク〉勢が旬になった20年代初頭。2019年に初シングル“Athen’s, France”を発表したBC,NRもその一群で名を知らしめたが、5年も経てば誰でも変化があるわけで……。
ブライトンで2015年に結成されてスピーディー・ワンダーグラウンドから登場し、ダン・キャリーによる2021年の初作『Bright Green Field』が全英4位を記録したスクイッド。クラウトロック〜ポスト・パンクを起点に、マルタ・サローニ(ブラック・ミディ他)と制作したこの3作目ではフォークやサイケにも接近している。
2017年にインスト・バンドとして結成され、フローレンス・ショウの加入で現体制になったサウス・ロンドンのバンド。こちらの2作目まで制作はジョン・パリッシュが担当し、いわゆるワイアー的なポスト・パンクを披露する。2023年にEP『Swampy』を配信し、昨年は高評価を得た初期EPを2in1でリイシューしていた。
ダン・キャリーのプロデュースした2018年の初作が大絶賛を浴び、往時のウィンドミル界隈〜ポスト・パンクの代表格と目されてきたバンド。制作前にまたもメンバー脱退があってトリオ編成となったこちらの3作目では共同制作にジョン“スパッド”マーフィー(ブラック・ミディ他)を迎え、前2作を融合したような印象だ。

2018年に結成されたリヴァプールの4人組で、スポーツ・チームと比較された2021年のEP『Grand National』で脚光を浴びたコーティング。以降はハイパーポップ以降の感覚を混ぜ込んだエレクトロニックなアート・パンクへ移行し、このニュー・アルバムではそれらの多面性を同居させて独創性を見せる。 *香椎 恵



