ここ数年、活気を取り戻しているUKのロック・シーン。ブライトンの大学生たちで結成された5人組バンドのスクイッドは、ダン・キャリーの主宰するスピーディー・ワンダーグラウンドからリリースしたEPで注目を集め、さらにはワープと契約したことでも話題を呼んでいる。メンバーのローリー・ナンカイヴェルとアーサー・レッドベターは、バンドの始まりについてこんなふうに振り返ってくれた。

 「僕らは大学で出会ってすぐに一緒に演奏するようになったんだ。みんなスロウでアンビエントな音楽が好きだったから、最初はそんな感じの曲をやっていた。でも、大学4年の頃にジャズ・クラブで演奏するようになってからは自分たちのテイストが加わって、音楽が急激に進化していったんだ」(ローリー)。

 「自分たちにとって重要な音楽を作ることが大切だった。すでに存在している音楽を作っても仕方ないと思ってたからね」(アーサー)。

SQUID 『Bright Green Field』 Warp/BEAT(2021)

 そして、ファースト・アルバム『Bright Green Field』は、ブラック・ミディやフォンテインズDCらUKの新世代バンドを手掛けてきた、先述のダン・キャリーをプロデューサーに迎えて制作。ロンドンのスタジオでレコーディングに取り組んだ。

 「コロナの規制が弱まっていた時期で、なんとか全員集まることができたんだ。僕らは全員でアイデアを出し合って曲を作り上げていく。その点、ダンとのレコーディングは最高だったよ。彼は素晴らしい聞き手で、全員のアイデアを聞きながら自分の意見も入れてそれぞれを調和させる。実験的な手法を採り入れながらも、すごくオーガニックに物事が進んでいくんだ」(アーサー)。

 ロック、電子音楽、ジャズなどさまざまな音楽性を融合した彼らのサウンドは、ポスト・ロック的なモダンさのなかに躍動感溢れるグルーヴが息づいている。ジャズをバックグラウンドに持っているだけに複雑な展開の曲を難なくこなせるのも彼らの強みで、8分という長さを一気に聴かせるシングル曲“Narrator”は、スクイッドの音楽性を象徴するナンバーだ。

 「この曲はギターのリフから生まれたんだ。そのリフをもとにみんなでジャム・セッションしながら作り上げていった。どこまでアグレッシヴでエモーショナルになれるか、行けるところまで行ってみようってことになったんだ。そして、最後にマーサ・スカイ・マーフィー(ロンドンを拠点に活動するシンガー・ソングライター)をゲストに招いて曲が完成した。オリー(・ジャッジ)とマーサの歌声の間に物語が生まれて、それを聴いた時にすごく美しいと思ったよ」(ローリー)。

 そして、彼らは多彩な楽曲を織り込みながらも、アルバムのなかに架空の都市を作り上げることでコンセプチュアルな統一感を生み出した。

 「ロックダウン中に僕らはオンライン上にファイルを作って、そこにアイデアを自由に書き込めるようにした。それがアルバムのイメージを決めるのに役立ったんだけど、そこで〈設定を架空の都市にしたらいいんじゃないか〉ってことになったんだ。歌詞の一部はJG・バラード(英国のSF作家)などのSF小説から影響を受けている。架空の都市という設定を軸にして曲同士に繋がりを作り、アルバムに一貫性を持たせたんだ」(ローリー)。

 文学やアートを音楽に採り入れる知性。そして、新しいサウンドを生み出そうとする好奇心が本作には詰まっている。完成したアルバムの感想を訊くと、「〈俺たち、何かやらかした!?〉って少し怖かったよ。でも、この緊張感がいいと思う」とローリーは笑った。1年半前からブリストルに移り住んでいて、これから地元のシーンと交流することを楽しみにしているとか。スクイッドの冒険は始まったばかりだ。

 


スクイッド
オリー・ジャッジ (ドラムス/リード・ヴォーカル)、ルイス・ボアレス(ギター/ヴォーカル)、アーサー・レッドベター(キーボード/弦楽器/パーカッション)、ローリー・ナンカイヴェル(ベース/ブラス)、アントン・ピアソン(ギター/ヴォーカル)から成る5人組。2017年にブライトンにて結成。同年に初EP『Lino』をリリース。2019年にはダン・キャリーが主宰するスピーディー・ワンダーグラウンドから2枚目のEP『Town Centre』を発表し、話題を呼ぶ。2020年にはBBC〈Sound Of 2020〉に選出され、ワープとの契約を発表。“Sludge”“Broadcaster”“Narrator”“Paddling”とシングルを立て続け、このたび、ファースト・アルバム『Bright Green Field』(Warp/BEAT)を5月7日にリリース予定。