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現代R&Bのロールモデル

 〈解放〉には音楽面の変化も含まれる。コロムビアから作品を出していた90年代のマライアは、途中からヒップホップ・ソウルの流れに同調してラッパーとの共演も増やしていくが、ウォルター・アファナシエフが作る普遍性のある曲を軸に、あのクリスマス・ソングも含めて全方位にアピールする存在だった。が、ヴァージン移籍で始まった21世紀は、本人と共同制作を行うプロデューサー陣も含めて基本軸をR&Bに定める。その方向性を決定づけたのが『The Emancipation Of Mimi』であった。5オクターヴ半を売りとするヴォーカルも、ホイッスル・ヴォイスを交えて快活に歌い上げていた20代と違って地声に比重を置き、失恋などをテーマにしたラヴソングを情熱的かつ抑制を効かせて歌うスタイルが主流に。滋味深い歌で30代半ばの成熟した女性らしさを強調した。

 その変化は“We Belong Together”に集約されている。繊細なピアノの旋律、TR-808系のキックとハイハットと共に進行するこのスロウは、JDが彼の右腕だったマニュエル・シールらと制作。ソングライティング(作詞)で参加したジョンテイ・オースティンの発案でボビー・ウーマック“If You Think You’re Lonely Now”のフックを引用し、LA・リード所縁のディール“Two Occasions”のフレーズも挿んだこれは、ジョンテイやブライアンが関わったメアリーJ・ブライジの“Be Without You”と並んで2005年を代表するR&Bソングとなった。また、2010年代以降のトラップ系R&Bにおいてもロールモデルとなり、当事者たちが関与したマニー・ロングの“Made For Me”も含めて定期的にオマージュ/引用されている。

 アルバム前半は“We Belong Together”に関わったJD一派との共同作業がキーとなる。故ファットマン・スクープの煽りを入れた“It’s Like That”とミディアムの“Shake It Off”もJDたちとの制作だ。イマジネーション“Just An Illusion”のメロを下敷きにしてJDが客演もした“Get Your Number”は当時絶好調だったネプチューンズを思わせる作風だが、実際にネプチューンズが制作した電脳グルーヴィー・ファンクも収録。その2曲、スヌープ・ドッグ客演の“Say Somethin’”とネリー客演の“To The Floor”は、人気ラッパーを招いてきた90年代中盤からの流れを汲む。また、“Stay The Night”ではカニエ・ウエストが当時の彼らしい作法でラムゼイ・ルイス版“Betcha By Golly Wow”をループさせてソウルを注入。ブルージーな“One And Only”では、カニエを中心にシカゴが熱くなるなかで最前線に復帰したトゥイスタが客演し、彼の早口に合わせたマライアのラップ歌唱も飛び出す。

 加えてアルバムを忘れ難いものにしたのが、失意からの脱却や復縁を祈るように歌ったインスピレーショナルなバラードだ。いずれもゴスペルをルーツに持つ鍵盤奏者との共同制作で、ジェイムズ・ポイザーによるメロウな“Mine Again”、前作に収録のビッグ・バラード“Through The Rain”でジャム&ルイスをサポートしていたフライトタイムのビッグ・ジム・ライトと組んだ“I Wish You Knew”“Circles”“Fly Like A Bird”がそれにあたる。4曲ともチョップス・ホーンズを含めた生演奏の響きがクラシック・ソウルのムードを醸成し、なかでもホイッスル・ヴォイスを放ってクワイアと共に昇天する“Fly Like A Bird”は圧巻のクロージングだった。