
マネスキンのフロントマンであるダミアーノ・デイヴィッドが、初のソロ・アルバム『FUNNY little FEARS』を完成。母体のマネスキンが絶好調のいま、なぜソロ活動を?と思うのは筆者だけではないはずだが、本人によると2016年の学生時代から一緒にバンドをやってきて、バンドとしての成長は目に見えて明らか。だが、同じく成長している自身の変化も見てほしい、もっと発揮したいという気持ちがソロへと向かわせたのだという。人気ロック・バンドのフロントマンという表看板をいったん降ろして、自身のありのままの素顔を反映した、よりプライヴェートな作品集というわけだ。
先行リリースされていた楽曲からも、マネスキンとは異なるサウンド志向であることはすでに窺い知れていた。壮大でドラマティックなバラード“Silverlines”、シンセ煌めく痛快ポップソング“Born With A Broken Heart”、アコースティック・ギターとオーケストラをバックにした哀愁バラード“Next Summer”、ピアノの旋律に導かれるポップ・アンセム“Voices”など、どれを取ってもダイナミズムやテンションで聴かせるバンド演奏とは一線を画したポップな方向性だ。そして、これらの楽曲も網羅したアルバムでは、さらにサプライズが待ち受け、4ピースのロック・バンドとは異なるサウンドが次々と展開されていく。
50年代オールディーズを思わせる“Tangerine”、叙情的でメランコリックな“Mars”、ピアノをバックにしっとり歌い上げるナンバーもあれば、ビートルズ風のメロディーや、UK耽美派ロックの影響を窺わせるポップ・アンセムも多数。さらに“Zombie Lady”には現在交際中のダヴ・キャメロンがヴォーカルで参加している。マネスキンでは叶わなかったであろう私的な展開だ。とはいえ、どの曲にも僕らが知るマネスキンのダミアーノと寸分違わぬ彼がそこにいるのも間違いない。自身の範疇外に飛び出したり、無理矢理に挑戦をしようという様子は皆無。むしろ彼らしさが、さまざまなスタイルの楽曲を通して表現されているといった印象だ。
プロダクション面では、マネスキンの制作にも携わるジェイソン・エヴィガン(デュア・リパ、ベンソン・ブーン他)が共作から演奏、プロデュースまで大役を担っている。そのジェイソンと共同制作することが多いマーク・シックとサラ・ハドソンも協力。同じくジェイソンと繋がりのあるラビリンスが“Silverlines”のプロデュースを手掛けていたり、ノア・サイラスもソングライティングで参加している。
収録曲の大半は、ダミアーノ自身の過去の苦々しい恋愛経験が基に描かれているのだが、昂揚感たっぷりに、心をときめかせるメロディアスな旋律に乗せて歌われる。アルバム・タイトルの『FUNNY little FEARS』(=おかしな小さな恐怖)は、高所や暗闇を怖がる自身の幼い頃からの性格から付けられているそうで、僕たちが知るダミアーノ像とは微妙に違っているのもおもしろく、これは新たな発見だろう。
もちろんバンドを離れての活動にも恐怖はつきまとうはずだが、意を決して彼はソロ活動に邁進中だ。6月からは夏フェスなどに出演し、9月からは自身がヘッドライナーを務めるワールド・ツアーを開催。そして10月末には東京・大阪へとやってくる。一方でマネスキンの今後に関しては一抹の不安があるものの、10年近く一緒にやってきたバンドがひとつ大きな峠を越えた現在、いったん立ち止まって各自を見つめ直すのは極めて自然なことかもしれない。多様性やインクルージョンを訴えてきた彼らのこと、ダミアーノがソロで自分らしさを表現することを祝福しているはず。そして何よりファンにとっては、彼の素顔をよりよく知るための絶好の機会となりそうだ。
ダミアーノ・デイヴィッド
99年生まれ、ローマ出身のシンガー/ソングライター。高校で出会ったメンバーたちと2016年にマネスキンを結成し、ヴォーカルを担当。TV番組「X Factor」出演で脚光を浴びたマネスキンは2017年にデビューし、2022年の〈ユーロビジョン・ソング・コンテスト〉優勝を経て世界的にブレイクする。2024年に“Silverlines”でソロ・デビュー。以降もコンスタントに楽曲を発表し、このたびファースト・アルバム『FUNNY little FEARS』(Sony Italy/ソニー)をリリースしたばかり。