
2度目の再集合を果たしたブリット・バンドが奇跡の来日公演を経て、約24年ぶりのニュー・アルバムを完成! ビタースウィートな人生経験と音楽家としての成熟を昇華させた『More』が映す、コモン・ピープルの姿とは?
これをやるために僕は存在する
今年の正月に開催された〈rockin’on sonic〉でのパルプのライヴは感動的だった。90年代にUKロックを牽引したバンドにとっては、約27年ぶりとなったこの国でのパフォーマンス。最初の再結成時のツアーで日本はスルーされており、その背景には本国や諸外国と日本での人気に差がありすぎるというシビアな判断もあったはず。それゆえ、今回のヘッドライナー公演は〈奇跡〉と呼ばれたわけだが、演奏面でも演出面でも仕上がりまくったバンド、30年近く待ち焦がれたファン双方の〈この夜を最高のものにしてやる〉という気合が見事に嚙み合い、凄まじい熱狂を創出。代表曲“Common People”でフロア全体が大合唱となる様は、洋楽ライヴ史における伝説の1ページとして記録されたはずだ。
振り返ると、パルプが2度目の再結成を宣言したのは2022年7月のこと。同年、フロントマンのジャーヴィス・コッカーはBBCドラマ「産婦人科医アダムの赤裸々日記」のサントラを手掛けたり、回顧録「Good Pop, Bad Pop: An Inventory」を上梓したり精力的だったため、驚いたファンも多かったはず。翌年3月に亡くなったスティーヴ・マッキーは残念ながら参加できなかったが、ジャーヴィスにニック・バンクス(ドラムス)、キャンディダ・ドイル(キーボード)、マーク・ウェバー(ギター)を加えた4人は、欧州でのフェス出演や北米ツアーなど2023~2024年にわたってコンスタントに活動。そして迎えた2025年は、前述の〈ロキソニ〉で幕を開けたわけだが、直前にバンドがラフ・トレードとの契約を発表したため、以降になんらかの音源発表を控えていることは予想できた。事実、大阪での単独公演では、2つの新曲“Got To Have Love”と“Farmer’s Market”が演奏されている。
そして、最初の解散前に発表された2001年作『We Love Life』以来、24年ぶりとなるニュー・アルバム『More』が完成。レコーディングは2024年11月18日にロンドンで始まり、制作期間は3週間。パルプ史上もっとも時間をかけずに完成したアルバムになったという。今回、彼らがプロデューサーに起用したのは、初顔合わせとなるジェイムズ・フォード。フォンテインズDCなどジェイムズが手掛けた最近の作品に参加しているアニメシュ・ラヴァルがミキシング、さらにマット・コルトンがマスタリングを担った。
アルバム冒頭を飾ったリード・シングル“Spike Island”は、これぞパルプ!と快哉を叫びたくなるダンサブルなポップソングながら、ドラムとベースのファンクネスを際立たせるメリハリの聴いた音像がジェイムズ・フォードならでは。なお、この曲は、ジャーヴィスがパルプ解散後に結成した覆面ユニット、リラックスド・マッスルで片割れだったジェイソン・バックルのデモを元に制作されたもの。スパイク・アイランドでのストーン・ローゼズの伝説的なライヴにいたというジェイソンの体験をモチーフに、ジャーヴィスは〈僕は存在する/これをやるために/叫び声を上げ、観客を指差す〉と声を張り上げる。まさにパルプのリザレクションを表明する、高揚感に溢れた一曲だ。そのほかパブ・ロック的な“Grown Ups”、〈ポスト・パンク・マナーでアバを演奏している〉と評された最初期のパルプを思わせる“Got To Have Love”なども、ロック・バンドとしての彼らのコンディションの良さを伝えてくれる。